「刑務所王1~房の戦争~」
text
小林淳一
ロジャー・コーマン、ジョナサン・デミの影響を受けた
韓国製・刑務所劇は、とてつもなく面白い!
日本映画でもアメリカ映画でも“刑務所モノ”は面白くて感動的な人気ジャンルだ。
「刑務所王1~房の戦争~」が面白い!
そのジャンルに韓国映画が挑んだ。
日本やアメリカとは違った刑務所の姿がそこにはある。
2000年代初頭から中盤にかけての、実際の韓国の刑務所在監者たちの生活を反映させ、“悪い奴ら”と“さらに悪い奴ら”が入り乱れて対立する物語をエピソード形式で構成している。
殺人未遂の容疑で刑務所に入ったイ・マニ。
癖の強い囚人に囲まれ刑務所独特のルールにも戸惑うばかりだが、何かと世話を焼いてくれるボスに心を開いていく。
ある日、シャバでボスと対立していた裏社会の会長、チョン・テスが同じ刑務所に収監されてくる。
“悪い奴ら”VS“悪い奴ら”。それぞれの”房“を支配する新旧ボスによる息詰まる攻防がはじまり、その”戦争“は驚愕のクライマックスを迎える……。
本作のカン・テホ監督はロジャー・コーマンの監獄映画に影響を受け、1996年に女子刑務所を題材にしたビデオ映画「여자뼁끼통(ヨジャペンキトン)」を制作した経験があり、今回、男性の監獄映画を作ることになったという。
そのロジャー・コーマン製作の女子刑務所モノというのが「残酷女刑務所」(1971年)、「残虐全裸女収容所」(1972年)、「女刑務所/白昼の暴動」(1974年)の3作。
「女刑務所/白昼の暴動」は、「羊たちの沈黙」を手がけたジョンサン・デミの監督デビュー作というから驚きだ。
この映画に流れるいい意味でのB級映画のモードは、ロジャー・コーマン譲りであり、その品格はジョナサン・デミからの継承なのかもしれない。
監督は「今村昌平(監督)が生前、『自分は虫けらのような人間たちの映画だけを撮り続ける』と語っていたのを聞いて深く感銘を受け、私はB級映画だけを撮ろうと心に誓いました」と言う。
そうか、この映画の生っぽさは今村昌平から来ているのかもしれない。
男の刑務所モノかと思ったら、ちゃんとエロスを感じさせるシーンもある。
それは、お楽しみだ。
ロジャー・コーマンの“女子刑務所モノ”や今村昌平にも通じるエロスにご期待あれ。
アクション・シーンももちろん凄い。
リアルな喧嘩の生々しさを表現するために10回以上繰り返し、同じ場面を撮影したという。
ボス同士のラストの戦いでは、本物のテコンドーの後ろ回し蹴りを腹部に放ち、相手は息もできず、真っ赤な顔になる様までが描かれる。
リアルな格闘は韓国映画の醍醐味だ。
作品は好評を受けて「刑務所王2~銭の戦争~」が作られた。
おなじみのキャラも出てくれば、あれ、この人、違う役で出ているじゃない! といういい意味でのいい加減さ。
またも面白い!
まるで「仁義なき戦い」シリーズを見ているような「刑務所王」ワールドがそこには展開している。
なお、カン・テホ監督の作品「暴力都市」はU-NEXTで配信中だ。
2000年代初頭に実際に起きた事件を題材にした、手段を選ばず「悪は悪で裁く」という信念を持つ、血も涙もない殺し屋の無慈悲で凄まじい追跡劇。
こちらもお楽しみを。
「刑務所王2~銭の戦争~」
「刑務所王1~房の戦争~」
監督・脚本:カン・テホ
出演:イ・ソルグ/ユ・サンジェ
2020/108分/韓国
「刑務所王2~銭の戦争~」
監督・脚本:カン・テホ
出演:シン・ユラム/ソン・ナッキョン
2021/110分/韓国
【刑務所王1+2】U-NEXT Huluでステゴロ配信中!悪くて強くて癖者揃い/韓国刑務所モノを目撃!刑務所王1~房の戦争 同2~銭の戦争