FILMOGRAPHY
チャン・リュル 全監督作品解説

「11歳」 (2001)短編 15分

主人公は繊細で内向的な11歳の少年。彼はサッカーが大好きで、4つの石ころを使い2つのゴールを作って友人を待つが、運動神経がまったくないため、PK戦でゴールを入れることができず、ゲームから外されてしまう。少年は誰かが抜けたときだけ、試合に参加する機会を与えられるものの、結局みんなのいじめの対象となり、同じ年頃の子供からもひどい侮辱を受けるはめになる。少年たちが遊ぶ運動場の外には、一人の中年男がいた。1日で脚本を書き上げたという初の短編はセリフがなく、効果音と音楽だけで構成されている。2001年の釜山アジア短編映画祭、第58回ベネチア国際映画祭短編コンペティション部門、2002年の第44回ババリア国際映画祭などで上映された。


「唐詩」 (2004)86分

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かつてスリだった中年男は、今では手の震えの症状を抱えてアパートの一室でひっそりと暮らしている。彼の弟子で恋人の女がたまに部屋を訪ねて来るくらいで、人づき合いもせず一人淡々と過ごす毎日。そんな彼の唯一の楽しみは隣の部屋に住む李老人の日常生活をトイレで盗み聞くことと、テレビで唐詩講座を見ること。ナイトクラブでショーの演出を始めた女は彼が興味を示すかと考え、職場の金庫を襲う計画を立てるが、彼が約束を破ったことで計画は未遂に終わる。数日後、李老人の家で殺人事件が発生し……。長編デビュー作で2004年の釜山国際映画祭釜山映像委員会賞を受賞したほか、ロカルノ、バンクーバー、香港、ロンドンなど世界各地の国際映画祭で上映された。


「キムチを売る女」 (2005)原題:芒種 109分

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中国の辺境で暮らす朝鮮族の女チェ・スニは、息子のチャンホと故郷に帰ることを夢見てキムチを売り歩いて生計を立てている32歳のシングルマザー。希望のない日々の中、同じ朝鮮族の男キム氏と不倫の仲となり、小さな幸せを見出す。だが、二人の関係をキム氏の妻に知られ、金を渡して関係を持ったというキム氏の弁明によって、スニは売春容疑で逮捕されてしまう。彼女の常連客で親切だった若い警官ワンは、警察署に連行され留置場に入れられたたスニに釈放と引き換えに体を要求する。2005年、第58回カンヌ国際映画祭批評家週間ACID賞、第10回釜山国際映画祭ニューカレンツ賞のほか、世界各国の映画祭で数々の賞を受賞し、その名が広く知られるようになった。


「風と砂の女」 (2007)原題(別名):境界 125分

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モンゴルに砂漠地帯の小さな町で牧畜をする男ハンガイは、病気の娘にウランバートルで治療させたいという妻の訴えに耳を貸すことなく、砂漠化が進む土地に植林を続けている。そんな彼に愛想を尽かして、妻は娘を連れて家を出る。一人残された彼の住むゲルにある日、脱北者の未亡人チェ・スニと息子チャンホが一晩の宿を求めてやって来る。翌日、出発しようとするスニに、疲れたチャンホはもう少し留まりたいと言い、親子はしばらくの間ハンガイの厄介になることにする。言葉がまったく通じないにもかかわらず、3人は穏やかな時を過ごす。その平穏な時間が続くように思えたが……。韓国人女優ソ・ジョンをヒロインに起用。ベルリン、釜山国際映画祭などで上映された。


「重慶」 (2007)95分

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重慶で外国人に北京語を教えているスー・ユンは、早くに母を亡くし、年老いた父と二人で暮らしている。ある日、買春で捕まった父を警官のワン・ウェイがうまく手を回してくれて事なきを得たことから、感謝した彼女はウェイに体を許し、彼に溺れていく。ところが、彼には多くの女がいたことを知って、ショックを受けたスー・ユンは彼の拳銃を盗み出してしまう。一方、彼女の生徒の中には、韓国のイリ駅爆発事故で家族を失って中国にやって来たキム・グァンチョルという青年がいた。当初、前半を重慶で、後半を全羅北道の益山(イクサン)で撮影し、一つの作品にするはずだったが、重慶パートが長くなったため、後半は「イリ」として「重慶」の1週間後に公開された。


「イリ」 (2008)108分

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1977年、火薬を積んだ貨物列車の爆発により多くの市民が犠牲になったイリ市。大惨事から30年、地名は益山市と変わり、事故のことを覚えている人も少なくなった。事故で両親を失ったテウンはタクシー運転手として働き、妹ジンソとひっそり暮らしていた。ジンソは事故当時、母のお腹にいて早産で生まれ、知的障害を抱えながら、地域の中国語教室や敬老センターの手伝いをしている。だが、純粋な妹につけ込む卑劣な人間たちに囲まれ、テウンの神経は次第にすり減っていく。実際に起きた事故をモチーフに、初めて韓国で撮影した作品。テウンにオム・テウン、ジンソにユン・ジンソが扮し、「重慶」で主人公スー・ユンを演じた郭柯宇が中国語講師の役で特別出演した。


「豆満江」 (2009)89分

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国境の川・豆満江を挟んで北朝鮮咸鏡道と向かい合う中国延辺の寒村。朝鮮族の12歳のチャンホは母が韓国に出稼ぎに行き、姉スニ、祖父の3人で暮らしている。彼はある日、食料を得るため豆満江を行き来する北朝鮮の少年チョンジンと知り合う。チャンホは彼をサッカーに誘い、家に呼んで食事を分け与える。次第に彼らの間には友情が芽生えるが、脱北者の手引きをしていた村人が摘発された頃、祖父がかくまった脱北者に姉が襲われ妊娠したことを知って、チャンホは怒りをチョンジンにぶつける。それでも、彼はチャンホとの約束を果たそうと、再び凍った豆満江を渡ってくる。2010年第15回釜山国際映画祭NETPAC賞をはじめ各賞を受賞した韓仏合作映画。


「風景」 (2013)96分

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フィリピン、バングラデシュ、ウズベキスタンなどから韓国に出稼ぎにやって来た9ヵ国、14人の外国人の仕事や日常生活を通して、彼らを取り巻く風景を映し出したドキュメンタリー作品。ソウル梨泰院のモスク、畜産物市場や朝鮮族タウン、地方の木材工場、染色工場、ビニールハウスなどで働く彼らに、インタビュアーが「故郷を離れ、韓国に来て見た夢の中で最も記憶に残る夢は何ですか?」と尋ねていく。夢で母や妻に会うという者、故郷の海や川を夢見るという者、忘れられない夢を心の奥にしまっていると語る者など、答えは少しずつ違っていても、彼らの望郷の念は変わらない。美しくも切なさを漂わせる様々な風景の中で異邦人の深い思いを紡ぎ出す。


「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」 (2014)149分

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北京大学教授のヒョンは、親しい先輩の葬式のために久しぶりに帰国し大邱(テグ)を訪れる。亡き先輩と7年前に行った慶州の伝統茶屋で見た春画を思い出したヒョンは、その場所を再訪するが、美しい女主人ユニに怪しまれ店を出る。そして、ソウルから呼び出した昔の恋人ヨジョンと会うが、トゲトゲしい彼女は驚きの過去を明かし去っていく。その後、再び茶屋に戻ったヒョンにユニは徐々に心を開き、彼を酒席に誘う。ユニに片想いする刑事ヨンミンはヒョンを警戒するが、その夜ユニはヒョンを部屋に招き入れる。死のイメージが幻想的で軽やかなタッチで綴られ、2014年釜山映画評論家協会賞を受賞した。慶州でオールロケされ、実際の店や建物が使われている。


「フィルム時代愛」 (2015)70分

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精神病院に入院している祖父の見舞いに孫娘がやって来る。祖父はリンゴをむいて、お気に入りの掃除のおばさんに渡そうとするが、驚いたおばさんは受け取ろうとしない。頑なに固辞するおばさんに怒り出した祖父。その勢いにおばさんが逃げ出すと、祖父は病院の階段を駆け下りてどこまでも追いかける。そこで「カット」の声がかかり、そこが映画撮影の現場だとわかる。ところがその直後、現れたスタッフが「おまえらに映画がわかるのか!?」と怒鳴り、撮影したフィルムを持ち去ってしまう。前年に22分の短編「同行」で描いたこの部分を1部とし、全4部で構成された実験的な作品。「慶州」主演のパク・ヘイルのほか、アン・ソンギ、ムン・ソリ、ハン・イェリが出演。


「春の夢」 (2016)101分

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朝鮮族の娘イェリは再開発が進むソウルの町・水色(スセク)で「故郷居酒屋」を営みながら、病気の父親を介護していた。気のいいチンピラのイクチュン、工場をクビになった脱北者のジョンボム、父の財産でのらくら暮らすイェリの大家のジョンビンたち3人は、イェリをマドンナと崇めて毎日店に集まっている。当初「三人行」というタイトルで企画された本作で、ハン・イェリ扮する主人公を慕う3人を演じたのはいずれも同名の映画監督。彼らの変哲もない日々がモノクロの柔らかな風景の中で夢のように綴られる。「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」のシン・ミナとキム・テフン、ユ・ヨンソクらがゲスト出演している。2016年釜山国際映画祭開幕作品となり、翌年の釜山映画評論家協会賞を受賞。


「群山:鵞鳥を咏う」 (2018)121分

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アマチュア詩人のユニョンは、秘かに憧れていた先輩の元妻ソンヒョンと飲みに行き、酔った勢いで全羅北道の群山(クンサン)までやってくる。徹夜明けの二人は安食堂の女主人から教えられ、昔の日本家屋を改造した民宿に泊まることにするが、ソンヒョンは部屋を二つ取り、ユニョンとの間に一線を引く。群山を散策し民宿で過ごすうち、ソンヒョンは福岡で育ったという宿の主人イ社長に興味を抱き、ユニョンは心を閉ざした社長の娘ジュウンに関心を寄せ始める。続いて、物語は二人がソウルで再会した時にさかのぼり……。主演のパク・ヘイル、ムン・ソリのほか、チョン・ジニョンやパク・ソダム、ハン・イェリ、イ・ミスクら、数多くのスターが出演した。


「福岡」 (2019)

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韓国で古書店を営む男性。彼は、三角関係が原因で縁を切った友人が日本の福岡で居酒屋を経営していると知った。常連客の女性と、福岡を訪ねる男。学生時代から20年、酒場で再会したふたりはよそよそしい。しかし、いつしかその過去と現在は繋がれていく。2019年、ベルリン国際映画祭で上映された。出演は、クォン・ヘヒョ、ユン・ジェムン、パク・ソダム。2019年、韓国にて公開予定。