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CULTURE / MOVIE
「第19回東京フィルメックス」速攻レビュー
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」
ジャ・ジャンクー、放浪の証

「第19回東京フィルメックス」。A PEOPLE(エーピープル)では、連日上映される作品を鑑賞、できるだけ早くレビューしていく。今回は特別招待作品、ジャ・ジャンクー監督「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」(中国・フランス)

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「山河ノスタルジア」に続くジャ・ジャンクー、3年ぶりの長編作品。ヤクザな恋人の罪をかぶって5年の刑に服した山西省の女性、その出所後に直面する苦悩を描く。

2001年から2018年までの長い時間の流れの中に描かれる物語の体裁は、1999年~2025年を背景に描いた前作「山河ノスタルジア」に通じるもの。ひとりの女性の葛藤を再びじっくり見つめようとする。

監督自身の声によれば、「青の稲妻」「長江哀歌」などの削除場面を見直した際、チャン・タオが演じたふたりの女性が彼の中で融合し、生まれた作品とのこと。なるほど、ヤクザ一歩手前の恋人という設定も「山河ノスタルジア」に次ぐ印象だが、チャン・タオ自身でいえば、映画前半で見せる少々トンがった女性像には「青の稲妻」での蓮っ葉娘を確かに連想させる。劇中になんらかの既視感に襲われたとしても無理はない。悪くいえば、過去作品の残り汁に具材を追加して再び煮立てたような作品なのだが、ジャ・ジャンクーの女優/妻チャン・タオへの関心は、感心するほど微塵も揺らいでいないのだ。

135分という総尺は短くない。主人公が刑務所に収監されるまででおよそ50分かかっている。切ろうと思えばいくらでも切れただろう。その点ではスリムにしきれていない。だが、その無駄がすなわち個性、作家性の代弁者になっているのも事実だろう。ここぞというときには依然として長回しで感情をすくい上げようとする。出所後の恋人との対面場面などはその象徴であり、深い交感の時間に溜飲を下げるファンも多いはずだ。とにかくチャン・タオをじっくり見つめている。見つめてきた時間ゆえの長尺、ともいえるか。

出所した主人公は恋人に新たな女ができていることを知り、途方に暮れる。しかし、生きなければならない。細かい悪事や嘘を重ね、窮地を逃れようとする。気がつけば故郷で雀荘の女主人にまでなって子分の面倒を見るなど、渡世人を気取っていた元恋人以上の渡世人になっている。このあたり、個人的には往年の俠客映画の様相を感じており、元恋人への絶えない慕情、助力などは、中国古来の義侠の伝統に則した描写といえるかもしれない。いずれにしても「シェルタリング・スカイ」のデブラ・ウィンガーのような漂泊の極限にまでは至らず、それもまた敏腕監督の常連女優へ向けた愛情、優しさとするべきか。

作品の後味としては抒情感より寂寥感の方が強い。構成のバランスもいいとは思えない。だが、3年の時間と7700kmの移動距離を要したという作品は、ジャ・ジャンクーが作家としてまだ放浪している、いや放浪できていることの証として麗しい。映画の渡世人の道は主演女優とともに未来へ続いている。

Written by:賀来タクト


「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」(中国・フランス)
Ash is Purest White
監督:ジャ・ジャンクー
©2018 Xstream Pictures (Beijing) - MK Productions - ARTE France Cinéma

配給:ビターズ・エンド

第19回東京フィルメックス


A PEOPLE 第19回東京フィルメックス 速攻レビュー

<特別招待作品>
「川沿いのホテル」
「あなたの顔」
「草の葉」
「アッシュ・イズ・ピュアレスト・ホワイト(原題)」

<コンペティション>
「夜明け」
「象は静かに座っている」
「幻土(げんど)」
「幸福城市」
「轢き殺された羊」
「マンタレイ」
「シベル」
「自由行」
「ロングデイズ・ジャーニー、イントゥ・ナイト(仮題)」
「アイカ(原題)」


昨年の東京フィルメックスで上映
「台北暮色」11月24日よりロードショー