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CULTURE / MOVIE
帰らざる日々の風景
「芳華-Youth-」

1970年代後半を中心に、中国人民解放軍・政治部専属の歌劇団(芸能部隊)「文芸工作団」に所属していた男女団員たちの在りし日を回顧した青春映画。実際には現代にまで及ぶ長いスパンの物語であり、その意味では大河ドラマとしてもよく、結果的に一種の戦争ドラマとの解釈をする向きもあるだろう。いずれにしても、文芸工作団の内部をつぶさに描いた映画もほかにあまり思い当たらず、まずはそれだけで貴重なのではないか。
 文化大革命の余波にある時代だが、暗鬱たる弾圧の気分は少ない。わずかに暗い空気を漂わせる要素といえば、ヒロインのホー・シャオピン(ミャオ・ミャオ)の実父が労働改造所に入所させられているという事実くらいだろう。監督のフォン・シャオガンと原作のゲリン・ヤンは共に文芸工作団出身。彼らの青春時代として、かの時代は十分にまぶしく、その郷愁が何よりも先に立っている格好か。少なくとも、どこか学園ドラマの様相で映画の前半は推移する。踊りの練習をする女性団員と彼女らを憧れのまなこで眺める男性団員、生活の節々ににじむ異性への慕情、そして女性団員の間で巻き起こるいざこざ、新入り団員へのいじめ。「汗臭い」などと何かにつけて厄介者扱いにされるシャオピンの姿はちょっと痛々しいものの、帰らざる日々の風景として、それらはやはり花のように芳しい。当事者にとっては尚更だろう。英語題名の「Youth」もここに由来する。

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映画の空気が変わるのは1979年、中越戦争の勃発あたりからだろうか。シャオピンは文芸工作団と決別し、野戦病院の配属になり、惨状を目の当たりにする。男性側の主人公リウ・フォン(ホアン・シュエン)は最前線で血まみれになる。
 フォンの舞台が奇襲を受ける場面の長回し撮影が凄まじい。兵士が次々に肉片となり、火炎放射器が敵兵を焼く。そのスペクタクル性に、同じフォン・シャオガン監督の「唐山大地震」の導入部を連想する観客もいるだろうか。
 中越戦争を描いた中国映画はほとんどない。一種のタブーとなっているためである。負け戦はどこの国でも後世の扱いが穏やかではない。
 かろうじて生き残ったリウ・フォンも世間からは英雄扱いされない。社会の底辺でさまようような生活を送っている。その疎まれ方は、アメリカのベトナム帰還兵さながらである。映画「ランボー」の主人公ジョン・ランボー(シルヴェスター・スタローン)は銃を手にしたが、リウ・フォンは屈辱にじっと耐えるだけであった。中国にも“ベトナム”があったのである。そのことをこの映画は改めて知らしめてくれる。
 リウ・フォンと同じく、ホー・シャオピンも恵まれぬ戦後を送っていた。フォン・シャオガンは、そんなふたりの姿を最後まで優しく見つめようとする。当事者にとって、それは当然の慈しみであり、換言するなら願いでもあったろう。

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Written by:賀来タクト


「芳華」
監督:フォン・シャオガン
出演:ホアン・シュアン/ミャオ・ミャオ/チョン・チューシー

新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国にて公開中
公式サイト