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PEOPLE / ホアン・シー
「台北暮色」登場人物3人に
彼女自身が入っている

photo by:丸谷嘉長

2017年、デビュー作「台北暮色」で台北映画祭脚本賞をはじめ4つの賞を受賞したホアン・シー(黄煕)監督。台北の街の一角で生きる孤独な3人の男女を描いた作品は、初監督作とは思えないほどの成熟を感じさせる一方で、はっとするような瑞々しさに満ちている。

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1975年、台北のエリート家庭に生まれたホアン監督は、ニューヨーク大学映画学科に入学。在学中の1996年、父親がホウ・シャオシェン(侯孝賢)監督と古くからの友人だった関係で「憂鬱な楽園」にインターンとして参加した。その後、2001年に台湾に戻るとホウ監督の映画会社「三視多媒體」に入り、多くの現場を体験するかたわら自らも脚本を書き始めた。それが「台北暮色」として結実する。

「大学を卒業してから、普通の企業に入ってマーケティングの仕事をしていましたが、昔から自分の進むべき道は映画だと決めていました。それで、2年ほど働いた後、ホウ監督の会社に入ったのです。脚本を書き始めたのは(ホウ監督の)『黒衣の刺客』の頃でした。完成するまでにものすごく時間がかかりました。会社勤めをしていたときから思いついたことや心に浮かんだことを書き留めていたんです。この映画はそうやって長年見聞きしたものや私自身のエネルギーとも言えるものを一つにまとめた作品だと言えます」

ジョニーという男宛ての間違い電話を度々受ける一人暮らしの女性、シュー。彼女の部屋の階下に母と住む少年、リー。車で寝泊まりしながら解体工事の現場で働く男、フォン。彼らはある日逃げたシューのオウムを追って顔を合わせる。

「彼らはあっという間に生まれたわけではありません。3人の人物像を宿題のように少しずつ練り上げていきました。どう肉付けしていったかといえば、やはり最も大きかったのはキャスティングでした。俳優が決まった後で、その人に合わせて描写や設定を変えた部分が結構多かったですね。それによって最終的に血の通った人物になったと思います。撮影しながら変更したり加えたりした点もありました。居場所がない、どこか漂泊しているような人物を描こうと最初から意識していたわけではありませんが、出来上がってみたら自然にそうなっていたという感じです。私自身が投影された人物はないと思っていたのですが、スタッフからは『この3人全員に監督が入っている』と指摘されました」

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長編映画初出演のシュー役リマ・ジタン(瑞瑪席丹)、これが4作目の映画となったリー役ホワン・ユエン(黄遠)という20代の若手に対して、ベテランのクー・ユールン(柯宇綸)がフォン役で安定感をもたらしている。
「脚本を書いていた段階で、フォンはクー・ユールンしかいないと思っていました。台湾のこの年代の男優は選択肢が少ないですし、この役は絶対に彼だという気持ちでした。彼は経験豊富で子役の頃からいろいろな役をやってきています。役に入り込むプロで、演技について私が言うことはありません。それだけでなく、美術などスタッフの仕事も熟知していますし、映画全体のことを何でも知っています。そのため彼とはぶつかることもありましたが、彼にフォンを演じてもらえて良かったです」