「私はまだまだ女性監督が少ないと思います。全世界的に見てもそうです。カンヌ国際映画祭をとってみても、コンペ部門には女性監督作品がほとんどなく、非コンペ部門にやっと見つけられる程度です。そんな状況において、女性が映画を専攻したとしても映画監督を目指すこと自体がとても難しいことだと思います。私も大学院を出ましたが、ただ漠然と講師や教授になるのだろうと思っていました。そう考えれば常識的でまともな人間に見えるだろうと思ったんです。映画監督になるなどと言い出せば非常識な人間と思われかねない雰囲気でした。私が通っていた大学は何十年もの歴史がある映画学科だったんですが、その大学出身で今でも活躍している女性監督はほとんどいないんです。同期の中でも長編監督としてデビューした女性監督は私ひとり。だから、私が女性として映画を作れるのだろうかと本当に疑心暗鬼でしたし、恐れもありました。「はちどり」が公開されてから思ったことは、今後、女性監督たちがもっと自信を持てるようになればいいなと。制度的にも文化的にも、女性監督の作品がもっとたくさん世の中に出て、目標にしたくなるような女性監督がたくさん現れ、女性が映画を撮ることが特別ではなくなればいいと思います。これは韓国だけの状況ではなく、世界的にも同じです。こんな状況下で、今後どのように映画を作っていかなければいけないのか常に悩みつつ、ポジティブに考えていきたいですね」
「はちどり」が15万人近い観客を動員、独立映画としては異例の大ヒットを記録し、さまざまなメディアで取り上げてられているキム・ボラ監督の姿を見て、“キム・ボラのような監督になりたい”と思った少女たちもたくさんいることだろう。
「最初、韓国の配給を担当したアットナインとは“5万人を超えるといいね”と話していました。ここ数年で大ヒットした独立映画の記録がそれくらいだったからです。5万人を突破したときはうれしかったですね。そして、14万人を超えたときはもう、皆で驚いて(笑)。感謝しかなかったです。高校時代の恩師や幼なじみから突然連絡が来たりもしました。人間の縁って不思議なものだなと思いましたし、結局、人と人とはどこかでずっとつながっているんだなとも思いました。いちばんうれしかったのは観客の皆さんの反応でした。多くの女性観客からの心に響く言葉に励まされました」
2019年、韓国独立映画界を代表する監督となったキム・ボラ。高校、大学と韓国で映画を学び、その後、アメリカに渡って映画を学んできた彼女の視線から見た韓国映画とは?
──次回“キム・ボラが見た世界の中の韓国映画”に続く。
Written by:大森美紀
「はちどり」
*全4回企画 キム・ボラが語る「はちどり」の世界 第4回は6月24日(水)配信予定。
キム・ボラ
1981年11月30日生まれ。東国大学映画映像学科を卒業後、コロンビア大学院で映画を学ぶ。2011年に監督した短編「リコーダーのテスト」が、アメリカ監督協会による最優秀学生作品賞をはじめ、各国の映画祭で映画賞を受賞し、注目を集める。同作品は、2012年の学生アカデミー賞の韓国版ファイナリストにも残った。本作「はちどり」は、「リコーダーのテスト」で9歳だった主人公ウニのその後の物語である。
「はちどり」
監督・脚本:キム・ボラ
出演:パク・ジフ/キム・セビョク/イ・スンヨン/チョン・インギ
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6月20日(土)よりユーロスペースにてロードショー 全国順次公開
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