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photo:星川洋助

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高畑充希 × タナダユキ

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賀来タクト


「浜の朝日の嘘つきどもと」のユニークなヒロイン像

撮影前からお互いを認め合っていたふたり。ドラマ版と映画版、両作品の撮影で1ヶ月ほど過ごした夏の福島の日々で、より一層、尊敬心が高まった様子。それぞれに対して感じたこと、映画の舞台となった映画館での時間などを振り返っていただいた。

――撮影を共にされて、それぞれお相手にどんな印象を持たれましたか。

高畑 タナダさんの作品が前から大好きで最近もNHKドラマの「昭和元禄落語心中」にどハマリしていたので、「タナダさんといつかお仕事できたら」と思っていたところに、この作品に呼んでいただいて。タナダさん、かっこいいんですよ。

タナダ いや、ユルイでしょ(笑)。

高畑 いえ、現場ではいろんなものが見えていて、「今のいいのが撮れたから、つぎのカットいらない」とか、その場でパンパンと判断をされる。スカッと無駄がなくて、俳優部が迷ったりすることがないんです。あと、単純にタナダさん自身のビジュアルが好き(笑)。カジュアルな格好でビシバシと現場を仕切られるんです。

タナダ ヒゲとか生えてなくて、モサくないからとか(笑)?

高畑 男性の監督の中には日に日に疲れてくる方もいるんですけど(笑)、タナダさんにはそれがない。いつもきれい。毎日がすがすがしくて、目の保養でした。

タナダ 高畑さんはどんな突拍子もない役でも筋を通す人。現実にいなさそうな役でも、こんな人いるかもしれないって思わせてくれて、何も言うことはなかったです。(高畑が演じる)莉子ちゃんが自由に動いてくれればくれるほどいい、みたいな感じで。座長として も頼りになる存在でした。準備でお待たせしてしまっても、全くお芝居に影響しない。とても助けられました。

高畑 現場も楽しかったです。柳家喬太郎さんや竹原ピストルさん、大先輩なのにすごく腰が低い方々で挨拶をしていたら、お互いにどんどん下に行っちゃったりして(笑)。

――茂木莉子は変わっているというか、ちょっとユニークなヒロインです。

タナダ もともと高畑さんとお仕事をしたいというのがあって、ダメ元で聞いてもらったら受けてくださったんです。高畑さんなら莉子の足を地につけてくれる気がして。

高畑 莉子は嘘つきじゃないですか。ちっちゃい嘘をずっとついている役。面白い人だなって思って。言葉でなく、行動で「本当」が見える人ですよね。あ、好きだなって。私、口が悪い役って好きなんですけど、テレビだとそういう役が少ないんですよ。みんな、いい子。でも、莉子はそうじゃないし、とにかくタナダさんの書かれた脚本が面白かった。タナダさんの今伝えたいことが詰まっている気がしましたし、飛び込ませていただきました。

――舞台となる老舗映画館「朝日座」にいる時間はどんな感じでしたか。

高畑 すごく「気」がいいところなんですよ、朝日座って。何十年もの間、そこだけ時間が止まっているような感じがあって。最初の緊急事態宣言が明けた頃に撮影があったんですけど、都会の喧噪から完全に離れることができた感じがあって、すごく癒されました。なんだか「休憩していったら?」ってその土地に言われているような感じの1ヶ月でした。

タナダ 確かに、落ち着くっていう感じはありましたね。毎日通っているうちに、手前勝手ですけど、「私たちの朝日座」みたいな感じがしてきて(笑)。でも、暑かったよね?

高畑 暑かったですね。でも、中は涼しかったですね。冬は寒そうな感じですけど(笑)。あれからまだ1年しか経っていないのに、すごく昔のことのような感じもありますね。

タナダ 今、朝日座に行ったら「懐かしい~」って言っちゃうかも(笑)。

高畑 昔通っていた小学校みたいな感じ(笑)? 行くと、時が止まる、みたいな。

――映画の題名にもちょっと変わった語感があります。

タナダ これ、映画に関係している言葉を並べた感じですね。福島の「浜通り」とか「朝日座」とか、あと莉子の本名の「浜野あさひ」と、彼女がつく「嘘」とか。

高畑 あ、そうか、私、タイトルロールになっているんだ(笑)。

――莉子はハードな人生を送っている役でもあります。

高畑 特に家族という根っこの部分がブレているのは大変だと思いますね。私の知り合いにも家庭環境が大変な人がいるんですけど、普段、それを感じさせないんです。むしろ、明るいというか。だから、莉子の一見、飄々とした嘘つきなところとかも、その奥にあらがえない何かがあるからそうなのかな、と思ったりして演じていましたね。

――高畑さんご自身は、つらいことがあっても莉子みたいにガーッと前に進めるタイプ?

高畑 全然です。私、エネルギーのキャパの95%を仕事で使っているので、仕事以外で人に会うと「淡々とした人だね」ってよく言われます。植物みたいに生きているかも(笑)。

――おふたりには忘れられない映画体験みたいなものはありますか。

高畑 何年か前に、松井大悟監督に勧められてポレポレ東中野で見た「立候補」ですね。ぶっ飛んでいる映画で面白かったですし、人生で初めて東中野で降りたかも(笑)。あ、こんなところに映画館があるんだって思いました。

タナダ 私は5歳のときに父に連れられて見た「影武者」。父に「コーラを買ってやるから大人しくしてろ」と買収された思い出があります(笑)。あと、今はもうないですけど、昔、関内アカデミーには2本立てをよく見に行っていました。当時お金もないから、手作りのボッソボソのパンを持って(笑)。

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「浜の朝日の嘘つきどもと」

ヘアメイク:市岡愛(高畑充希)/有路涼子(タナダユキ)
スタイリング:岩田麻希(高畑充希)/石橋万里(タナダユキ)
衣装協力:(高畑充希)CHIATZY CHEN,e.m.表参道店/(タナダユキ):イヤリング/アビステ、リング/アビステ


「浜の朝日の嘘つきどもと」

監督・脚本:タナダユキ
出演:高畑充希/柳家喬太郎/大久保佳代子

2021年製作/114分/日本
配給:ポニーキャニオン
© 2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会

8月27日(金)より福島県先行公開
9月10日(金)より全国ロードショー


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