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photo:星川洋助

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市山尚三
第35回東京国際映画祭(2022)

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相田冬二


映画をカテゴライズするのではなく、
純粋にクオリティで選ぶ

「今年、応募がすごく増えて。そしてクオリティが上がった。特に日本映画のレベルが高く、昨年より日本映画の上映本数が増えています。コンペティション部門にも3本の日本映画が。当初は2 本の予定でしたが、どれも落とすことができなかった。Nippon Cinema Now部門にもワールド・プレミア作品がひしめいています。なので今回は選考に悩みました。それがなぜなのかはわからない。一つは、コロナ禍での撮影状況がやや軟化したことはあるかもしれません。去年の後半から、少なくとも日本映画の製作は活発になってきました。もう一つは、これまで東京国際に応募していなかったインディーズの映画人が一気に応募してきたのかなと。映画祭の上映作品としてメジャー映画の印象が強かったのかもしれませんね。検証はできないんですが、とにかく日本映画の選定には、いい意味で苦労しました」

開口一番、市山尚三はそう話す。昨年に続き、第35回東京国際映画祭でもプログラミング・ディレクターを務める。2021年、TIFFは市山の帰還=復帰によって、新たな息吹きを獲得した。応募が増えたのは、そのことの何よりの証明。日本を代表する映画祭を、日本のインディーズ作家が目指す。これは極めて健全なことだ。市山は、世界のインディーズを見つめてきた審美眼の持ち主。私の周りでも昨年、久しぶりにTIFFに参加したという観客が多かった。

「オープニングの『ラーゲリより愛を込めて』は東宝配給作品。ガラ・セレクションには廣木(隆一)監督の3本が入っており、松竹やワーナーの配給作品です。確かにメジャー映画ではある。しかし『ラーゲリ』の瀬々(敬久)監督も、廣木監督も、いまの日本映画を代表する監督で、このふたりは、インディペンデントの映画とメジャーの映画を両方撮り続けている。メジャー作品の時も、テーマ性や映画的なスタイルは、他の商業監督とは違う。どんなにごく普通のラブストーリーに見えても、どこかに作家性がある。廣木監督の3本も、どれも落とせなかった。どれも違うし、どれも面白い」

市山PDのセレクト基準は、東京フィルメックス映画祭のときから一貫している。メジャー、インディーズで映画をカテゴライズするのではなく、純粋にクオリティで選ぶ。

「テーマでセレクトしているわけではありませんが、結果的に、社会といろいろな形で闘っている監督の作品が、コンペティションには多くなりましたね。格差社会や政治的な革命が背景にあったりします。トランスジェンダーの人たちも含み。『アシュカル』(チュニジア/フランス)は刑事ドラマのようなスリラーですが、ジャスミン革命後の混乱が炙り出される。ホラーや超自然的な要素も入っている。黒沢清監督の映画に通ずるところもあります。社会的テーマとジャンル映画の融合ですね。見た目は娯楽映画のようにスマートに作っているけど、実は…という作品が多いかもしれません」

国の地図的分布にもこだわらない純粋作品主義。

「別に、国の対抗戦じゃないんで。同じ国から2本あっても、3本あってもいいんです。『ザ・ビースト』と『マンティコア』はどちらもスペインですね」

昨年も鮮やかなラインナップだったガラ・セレクション。イニャリトゥ7年ぶりの新作「バルド、偽りの記録と一握りの真実」から、ノア・バームバックとアダム・ドライバーのタッグ作「ホワイト・ノイズ」まで艶やかだ。

「公開間近の話題作はもちろん、まだ日本公開未定の世界的な注目作もあります。ソクーロフの『フェアリーテイル』は大変な問題作。なんと世界史実在の独裁者たちが、映像キャプチャーで登場、煉獄で対話する。こんなことやっていいのか!と驚かされるゴダール並みの手法。ワールド・フォーカスでは、配給の決まっていない作品を上映。今回の目玉は『エドワード・ヤンの恋愛時代[レストア版]』。ヤンの追悼特集でも権利関係で上映できなかった傑作がついにレストアで甦ります。個人的には東京都国際映画祭京都大会で上映した想い出深い一本。ヤン作品の中で、これだけ観ることができていない若い人も多いはず。スクリーンで体験すべき。お馴染みラヴ・ディアスの『波が去るとき』は、『立ち去った女』以来の明快な作品。カンヌ映画祭で批評家には絶賛されながら無冠に終わったアルベルト・セラの『パシフィクション』、謎の戦隊もの『タバコは席の原因になる』、そしてドキュメンタリー『セカンド・チャンス』も面白い。防弾チョッキ販売で大成功を収めた男を追っていますが、PRのために社長自ら防弾チョッキを着て撃たれるアクション映画を制作。これが観てられないほど下手くそなのですが、とにかく面白い。アミール・ナデリの弟子ラミン・バーラニは銃社会の恐怖や皮肉にはあえて言及せずに痛快な作品を作り上げました」

コンペティション、アジアの未来、この2部門への出品監督は、ほぼ全員が来日。自費でも来たいという映画人も多く、海外からのゲストはスタッフ、キャストあわせて100名ほどだという。いまだコロナ禍ではあるが、国際映画祭らしい活気が戻りそうだ。

そして国立映画アーカイブと共催する特集上映《長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー》も見逃せない。相米慎二の『光る女 修復版』など4作のデジタルリマスター版に加え、井筒和幸から黒沢清までを擁した伝説の監督集団ディレクターズ・カンパニーの代表作9作も上映。

「池田敏春監督の『死霊の罠』は、脚本の石井隆さん追悼の意味も込めて選んでいます。また、青山真治監督の追悼企画も国立映画アーカイブとの共催。『チンピラ』『シェーディー・グローヴ』は英語字幕付をアーカイブが有していました。『チンピラ』もTIFFで上映された作品です。日比谷ステップ広場での屋外上映会では急遽『東京公園』もやることに。青山監督の作品5本が集うことになります」

長谷川和彦、高橋伴明、根岸吉太郎、井筒和幸、黒沢清、石井岳龍ら、ディレカンの面々も登壇するという。


第35回東京国際映画祭
10月24日(月)~11月2日(水)、日比谷、有楽町、銀座、丸の内エリアの劇場にて実施


長谷川和彦とディレクターズ・カンパニー


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