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「柳川」

review

第17回大阪アジアン映画祭

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相田冬二


チャン・リュル「柳川」、ホアン・シーとホン・サンスの最新作が上映

今年で第17回を迎える大阪アジアン映画祭。例年、多彩で確かな着眼点を携えたプログラミングを施すディレクター、暉峻創三に2022年の全87作品から、注目の数本、そして現代アジア映画の傾向を訊いた。

「近年、お客さんに言われて気づいたのですが、僕のセレクションは女性が中心になっているものが多い。女性同士の関係を描いているものも含めて。自分では全く認識していませんでしたが、そう言われると、確かにそう。今年も気がついたら、そうなっていました。何か意図があるわけではなく、純粋に作品のクオリティで選んでいるだけですが。『アミラ』『アニタ』『シャンカルのお話』『おひとりさま族』『ブルドーザー少女』『赤ザクロ』……コンペ作品のタイトルからして、もう女性中心ですね(笑)。指摘されてみると、女性を中心に据えた作品に傑作率が高いのは事実。あくまでも結果論ですが、年々感じてはいることです」

暉峻はそう語り出した。一方、第16回でグランプリと観客賞に輝いた「いとみち」の横浜聡子監督の特集が行われる。この点も重要だ。「ジャーマン+雨」で衝撃的に登場したこの女性監督の全貌を、短編やテレビ作品も丹念に拾い上げながら包括的に全8本で構成する《焦点監督:横浜聡子》の意義は深い。

「この8本のプログラマーは、ほぼ横浜監督と言っていいと思います。僕的なこだわりは、テレビ作品『ひとりキャンプで食って寝る 第7話 西伊豆でコンビーフユッケ』の脚本家が、コンペティション部門に出品されている『世界は僕らに気づかない』の監督、飯塚花笑さんだという点。コンペでは唯一の日本映画となりましたが、主人公はゲイ青年、そのお母さんはフィリピン人。そうしたことがごく自然に描かれている点は(多様性を肯定する作品を数多く上映してきた)大阪アジアンにふさわしい作品だと思っています」

女性映画に加え、LGBTQの観点から語ることのできる作品も多い。

「香港の『はじめて好きになった人』はまさに女性同士。また、特別注視部門のインド『母のガールフレンド』はタイトル通り、女性カップルの物語です。インディ・フォーラム部門の日本映画『ボクらのホームパーティー』は7人のゲイの一夜。《ニューアクション!サウスイースト》の『理想の国』『椿三姉妹』、ドキュメンタリーになりますが特別注視部門の『バウンダリー:火花フェミ・アクション』などは、シスターフッドの観点からも語れる作品だと思います」

《台湾:電影ルネッサンス2022》では、「女子学校(デジタル・リマスター版)」も興味深い。

「1982年、まさに台湾ニューウェーブが始まった年の作品。監督のミミ・リーは、ホウ・シャオシエンやエドワード・ヤンより一歳年長の女性。完全に同世代ですが、ニューウェーブの枠組みに入っていなかったため、これまで見落とされてきた。その反省もあり、昨年、ようやく本国でリマスターされました。いまの台湾はLGBTQに対してオープンですが、同性愛を描いたものとしてこれは台湾でいちばん古い作品かもしれません」

女性監督と言えば、「29歳問題」のキーレン・パン、待望の第2作「ママの出来事」がワールドプレミアされる。

「この作品、実は意外な盛り上がりもあるんです。香港のアイドルグループ、MIRRORのメンバー、ギョン・トゥが映画初出演。世界初上映ということもあり、映画祭の公式YouTubeのアクセス数が凄いことになっています。いま、出演者の高齢化が問題になってもいる香港映画界。ギョン・トゥは期待の星です」

コンペの中国「宇宙探索編集部」、モンゴル「セールス・ガール」は、イメージを裏切る快作だという。

「『宇宙探索』という実在のUFOマニア雑誌の編集部が舞台。映画マニアにも置き換えられる、エンタメ的にもキャッチーな作品です。中国では非現実を扱う作品は検閲が通りにくく、これも劇場公開はされていません。ジャ・ジャンクーが主宰する平遥(ピンヤオ)クラウチング・タイガー・ヒドゥン・ドラゴン国際映画祭で上映されただけですが、このときグランプリと観客賞に輝いています。モンゴル映画と言えば、大平原や遊牧民のイメージでしょう? でも『セールス・ガール』は都会の話で、東京を舞台にした映画と同じ感覚で見られます。海外での上映は全く考えていなかったようですが、単なる娯楽作ではない素晴らしい作品です」

ロシアのウクライナ侵攻の前に、ウクライナ映画「二度と一緒にさまよわない」をプログラミングしている点も、暉峻ディレクターの鋭敏な感性を象徴している。

「いや、たまたまです。『二度と一緒にさまよわない』はウクライナ人監督、主演のふたりもウクライナ人。ただ、ロシアも合作に入っています。そもそも監督はモスクワで映画を学び、そこでのネットワークから映画作りを可能にした。ウクライナとロシアには切っても切れない複雑な関係性があります。舞台はトルコですが、劇中にこんな場面があります。ロシア人観光客が「こんな旅先で、自分たちの国の人に出会えるなんて」と言うと、主人公のウクライナ人男女は「自分たちはウクライナ人」と違和感を表明する。ロシア人側は「同じ国」と思っているが、ウクライナ人はそうは思っていない。いまとなっては、現在の情勢を直接的に垣間見る場面になっています。これは、映画祭としてはやや古めの2020年作品ですが、ウクライナということを抜きにしても、どうしても上映したかった。リチャード・リンクレイターの作品にも通ずる映像世界。本作も含め、今回セレクトした短編には自信があります。短編プログラムは7つありますが、見逃してほしくないですね。どれか一つだけでも、ぜひ!」

A PEOPLEにとっては台湾のホアン・シー、韓国のホン・サンスの最新作が観られるのも大きなトピックだ。

「『縁起良き時(第1話)』は、ホアン・シーが全7話を手がけるドラマシリーズの一編。本国では3月27日からスタートですから、それに先駆けての世界初上映が実現しました。コロナの時代は、配信などの作品も映画監督が手がけるようになりましたが、台湾でも例外ではありません。流通するルートが違うだけで、これは完全に映画です。なにしろ、エグゼクティブ・プロデューサーはホウ・シャオシエンですから。完全に『台北暮色』の監督の新作という印象。今回は都市の話というより、台湾の伝統的な世界に向かっている点が興味深い。しかも、リー・カーションにシルヴィア・チャンという豪華キャスト。現代台湾映画界の集大成と言っても過言ではありません。『あなたの顔の前で(仮題)』は、個人的には久しぶりに新鮮なホン・サンス作品。キム・ミニが出演しておらず、ベテランの映画監督や50代の女優を描いている。ホン・サンスが同世代を見つめているんです」

オープニングとクロージングには、奇しくも日本を舞台にした2作品が揃った。

「昨年の閉幕作品『アジアの天使』で主演していた池松壮亮が出演している『柳川』が今年の開幕作品って、美しい流れですよね。別に狙っていたわけではないんですが(笑)。『柳川』は、A PEOPLEが配給した『慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ』などで知られるチャン・リュルにとっては久しぶりの中国映画。近年は韓国で活躍していたチャン・リュルですが、彼らしさはここでも堂々たるもの。『MISS OSAKA(原題)』は、デンマーク人監督がノルウェーと大阪で撮った一作。大阪から来た自分とよく似た女性に成りすまして、日本に行くヒロインのアイデンティティを巡るストーリー。タイトルはダブルミーンングで、大阪編では、実在する歴史的キャバレー、ミス大阪が主な舞台になります。また、《大阪アジアン・オンライン座》では、これまで映画祭で上映してきた選りすぐりの日本映画をラインナップ、全世界配信。海外の映画ファンにも、日本映画の秀作を知ってもらう良い機会だと自負しています」



「第17回大阪アジアン映画祭」

スクリーン上映 3月10日(木)~20日(日)
オンライン座 3月3日(木)~21日(月)


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