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俳優で見る「台湾ニューシネマ×台北暮色」その3
チャン・チェン

前回触れたように、「台北暮色」にはクー・ユールン(柯宇綸)扮するフォンの友人の父親役で、台湾の名優チャン・クォチュー(張國柱)が出演している。体育教師を経て1977年に映画界入りしてから40年以上活躍してきた彼だが、意外にも本作のプロデューサーであるホウ・シャオシェン(侯孝賢)作品に出演したことはない。しかし、クォチューの息子でアジアを股にかけて活躍するチャン・チェン(張震)が、そんな二人を結ぶ存在となっている。

チャン・チェンは2005年の「百年恋歌」で初めてホウ監督作品に出演した。3つの異なる時代を生きる男女の愛を、いずれも彼とスー・チー(舒淇)が演じている。そして、その後再び監督と顔を合わせた作品が2015年の「黒衣の刺客」だ。ヒロインはこれもまたスー・チーで、暗殺者となった彼女が命を狙うかつての婚約者という役どころを演じている。カンヌ国際映画祭監督賞をはじめ金馬奨など各賞を受賞した本作は、ホウ・シャオシェンにとっては今のところ唯一の武侠時代劇。余談だが、チャン・チェンはこの映画の撮影真っ最中の2013年に結婚式を挙げており、もちろん出席した監督共々、式後すぐに現場に戻ったのだとか。まあ、何しろ撮影に5年もかかったというから、監督も「挙式は撮影が終わってからに」とは言えなかったのかも……。

今や中華圏最高のスターの一人となったチャン・チェンは、ホウ監督以外にもアジアを代表する監督たちと組んできた。彼の代表作を一つだけ選ぶのは難しいが、やはり本格デビュー作となった1991年の「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」を挙げないわけにはいかないだろう。昨年デジタルリマスター版で25年ぶりに日本公開された、エドワード・ヤン(楊徳昌)監督の畢生の傑作とも言える映画が、チャン・チェンの人生に大きな影響を及ぼしたことは間違いない。

父親チャン・クォチューと、同じく俳優の兄チャン・ハン(張翰)が、劇中でも彼の父と兄を演じており、クー・ユールンも友人役で出演している。その中で当時15歳のチャン・チェンは、1961年に起きた殺人事件の犯人をモデルにした主人公の中学生シャオスー(小四)を演じ、1年以上にわたった長いリハーサルと撮影を通して映画の中でその人物として生きる体験をした。多感な時期のそんな体験はおそらく想像以上に強烈なものだったはず。彼自身、この映画の後では口数が少なくなり、内省的になったと語っている。

この後、そのまま俳優を続けることなく学業に専念したチャン・チェンが、演技を再開したのは1996年のエドワード・ヤン監督の「カップルズ」から。この作品では父クォチューのほか、「牯嶺街〜」の共演者ともまた息を合わせた。残念ながら監督と彼が組んだのはこれが最後となったが、映画は永遠に残り、その記憶は人々の中に生き続ける。台湾ニューシネマを語るときに欠かすことのできない監督によって俳優チャン・チェンが生まれ、大きく羽ばたいたことを思うと、彼らの出会いに感謝したくなる。

ところで、チャン・チェンがホウ・シャオシェンと組んだもう1作に「電姫戯院」という短編がある。2007年、カンヌ国際映画祭60回を記念して企画された、世界の映画監督による映画館がテーマのオムニバス短編「それぞれのシネマ」の中の一編がそれだ。「百年恋歌」と「黒衣の刺客」の間に撮られた、ヒロインは2作同様にスー・チーが務めている。次回は彼女について掘り下げてみたい。

文:小田香


台湾映画「台北暮色」
11月24日(金)~ユーロスペース、横浜シネマリン 他全国順次公開

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その4 スー・チー

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