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パク・ヘイル × シン・ミナ
「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」の軌跡 ⑤
シン・ミナ「今、このままがいい」

シン・ミナが都会暮らしのキャリアウーマンを演じた感動作。

ストッキングを履く足のアップから始まる。髪はショートカット。スーツが決まって、電話の対応がまた「できる女」全開。大人としての毅然が打ち出される。
 物語は、母の急死を知らせる電話から動き出す。父の顔を知らずに育ったミョンウン(シン・ミナ)が、母の遺品整理をしていくうちに、父を捜してみようと思い立ち、父違いの姉ミョンジュ(コン・ヒョジン)を誘って、故郷の済州島を後にするというもの。
 魚屋を切り盛りしている姉は妹から見れば雑な人間で、両者は事あるごとに対立。船から車と移動手段を途中で変えてのロードムービー気分の中、シン・ミナの妹キャラは一貫しており、酒にもだらしない姉にずっと不機嫌なまま。船室にカビが生えているだけで怒り出し、虫も大嫌い。そんな潔癖ぶりが意固地なまでの父探索の説得力を画面に打ち出す。
 異父姉妹の旅という現在に、父を持たないミョンウンの回想が絡められるスタイル。過去のシーンでシン・ミナは眼鏡をかけた三つ編み姿も披露。映画デビュー作「火山高」では男勝りの女学生を演じた時代を思うと、この勝ち気ながらフツーの女子高生演技は新鮮。キャリアウーマン演技と好対照を成して、シン・ミナ体験としては面白い。
 いがみあっていた姉妹が仲直りするという物語の大きな流れに新味はない。しかし、父をめぐる秘密はなかなか衝撃的で、このショックが大きいほどシン・ミナをはじめとする女優陣の見え方も変わる。換言するなら、繊細に組み立てられた謎解き演出であり、2度目の本編鑑賞の方が1度目より面白いという不思議かつ見事な人間ドラマなのであった。

文:賀来タクト


「今、このままがいい」(2008)
監督:プ・ジヨン
出演:コン・ヒョジン/シン・ミナ/チュ・グィジョン/ムン・ジェウォン

「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」公式サイト


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