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CULTURE / MOVIE
想起させられる、相米慎二の記憶
フィルメックス2017 中国・台湾・香港映画の現在④
「天使は白をまとう」(中国 2017)

プロデューサーとして活躍してきたヴィヴィアン・チュウの監督第2作。海辺のモーテルで起きた少女ふたりへの暴行事件。唯一の目撃者は、その夜フロントで受付をしていた10代の女性だが、彼女はIDを持たずに仕事をしているため、事の発覚をおそれ、真相を話そうとはしない。その一方で、彼女はある「取り引き」を進めようとする。

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社会派的な視点を有したサスペンス。被害者の存在が、目撃者に重ね合わされる構成、また、親世代の女性性に対する抑圧と隠蔽など、監督のフェミニズムは濃厚だが、相米慎二監督の映画を観てきた観客であれば、幾つかの作品を想起させられるはず。

ある者は、小柄な主人公がホテル仕事をこなしている姿に「東京上空いらっしゃいませ」の牧瀬里穂を思い出すだろう。また、不甲斐ない親のありようによって精神的に自立せざるをえない少女の鋭いまなざしは「お引越し」の田畑智子をよみがえらせる。そして、冒頭とラストに登場する「マリリン・モンロー」の存在は、「セーラー服と機関銃」のエンディングの記憶に結びつく。

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タイトルに冠された「白」は、社会が女性に押し付けるイメージのメタファーであり、終盤でヒロインが白いドレスをまとうのも、おそらくは果敢な抵抗を示してはいる。だがこの女性監督が相米作品を観ている、観ていないにかかわらず、本作がメッセージを超えた地点で、映画ならではの吸引力を放っているのは間違いのないところだ。

Written by:相田冬二


「天使は白をまとう」
監督:ヴィヴィアン・チュウ(Vivian QU)
第18回東京フィルメックス2017 特別招待作品

http://filmex.net/2017/