アメリカから来た少女

2022年10月8日(土)より
ユーロスペース(東京)ほか全国順次公開

上映情報→

配給 A PEOPLE CINEMA(エーピープルシネマ)

NEWS

・「A PEOPLE CINEMA/アメリカから来た少女 ケイトリン・ファン インタビュー掲載

・「シネ・ヌーヴォ(大阪)」での上映が決定しました。詳細は決まり次第お知らせいたします。

・11月4日(金)〜「KBCシネマ(福岡)」での上映が決定いたしました。

・「A PEOPLE CINEMA/アメリカから来た少女 ロアン・フォンイー インタビュー掲載

・10月上旬から渋谷TSUTAYAで特集展開が決定しました。詳細は決まり次第お知らせいたします。

・「A PEOPLE CINEMA/アメリカから来た少女 レビュー(映画批評家・相田冬二さん)」が掲載

・「静岡シネ・ギャラリー(静岡)」「伏見ミリオン座(愛知)」での上映が決定いたしました。

・「KBCシネマ(福岡)」での上映が決定いたしました。

・11月「横浜シネマリン(神奈川)」「進富座(三重)」での上映が決定いたしました。

・10月8日(土)「ユーロスペース(東京)」での上映が決定いたしました。

INTRODUCTION

*

第58回金馬奨10部門ノミネート5部門受賞
(最優秀新人監督賞、最優秀新人俳優賞、最優秀撮影賞、観客賞、国際批評家連盟賞)

第58回金馬奨では10部門にノミネートされ、最優秀新人監督賞、最優秀撮影賞、国際批評家連盟賞や観客賞など5部門で受賞(主演女優賞にカリーナ・ラムとケイトリン・ファンが揃ってノミネートされた)。2022年の第3回台湾映画評論家協会賞でも最優秀作品賞と最優秀脚本賞を獲得。第24回台北映画祭では最優秀長編作品賞、最優秀新人賞の2部門で受賞した。オーディションで主人公に選ばれたケイトリン・ファンのみずみずしい演技が多くの人に絶賛され、金馬奨と台北映画祭のいずれも最優秀新人賞に輝いた。両親役を務めたカリーナ・ラムとカイザー・チュアンが、彼女と妹役のオードリー・リンを支えている。弱冠32歳にして才能を開花させた注目の若手女性監督ロアン・フォンイーが、SARSウィルスで揺れる2003年、台北を舞台に、乳がんになった母をもつ少女の心の軌跡を、陰影深い圧倒的な映像美で描く、半自伝的映画。「百日告別」のトム・リン監督がプロデユーサーを務めている。

STORY

SARSが猛威を振るった2003年、
アメリカから台湾に帰郷した
13歳の少女と家族の物語。

*

2003年冬、母と妹とロサンゼルスで暮らしていた13歳のファンイーは、母が乳がんになったため、3人で台湾に戻ってくる。台北の中学に通い始めたファンイーは、決められた髪型や制服、苦手な中国語の授業、先生の体罰などアメリカとは違う学校生活になかなか馴染めない。幼馴染のティン以外のクラスメイトからは “アメリカン・ガール ”と呼ばれ疎外感を味わい、アメリカの友人に「ここは最悪」とメールを送る。家では母が術後の不調を訴え、9歳年下のファンアンが病気の話でファンイーを苛立たせる。家族と久々に一つ屋根で過ごすことになった父は、妻を心配し娘たちを気遣いながらも、生活のために出張で家を空けざるを得ない。母に対しやり場のない怒りを募らせるファンイーは反抗的な態度を取り続ける。そんな娘に母も感情的になり、親子の溝は広がっていく。乗馬が好きだったファンイーは、インターネットカフェに出入りして台湾の乗馬クラブを検索し、母への不満をブログに書いては気を紛らしていた。間もなく、ブログを読んだ教師からスピーチコンテストに出ることを勧められたファンイーは前向きになる。だが、コンテストの前日、発熱したファンアンがSARSの疑いで病院に隔離されてしまう。

INTERVIEW

文 小田香

監督 ロアン・フォンイー

監督 ロアン・フォンイー
(阮鳳儀)

舞台となる2003年を再現していきました。

 ロアン・フォンイー監督は自身の体験を投影した本作「アメリカから来た少女」で長編デビューを飾った。
「この物語は私の家族をモデルにしています。特に長女は、私自身の視点から描いており、ほとんどが私のリアルな実体験です。2018年に金馬奨の脚本創作ワークショップにシノプシスを出したことから始まりました。その前に『おねえちゃんJieJie』という短編が評価を受けていたので、今回の作品に繋がったのです。
 脚本はリー・ピンさんと共同で書いています。作品には客観的な視点が必要です。彼は私より10歳くらい年上の男性ですから、物事を見る視点も私とは違ったものがあって、ちょうどいいと思いました。その頃、リー・ピンさんはイギリスにいらっしゃったので、私とはオンラインでやり取りをしながら作っていきました。リー・ピンさんに特にお願いしたのは夫婦のやり取りの部分です。中でも夫婦が寝室でいろいろ話すところは私にとっては難しく、私が描くとしたら推測でしか書けないわけです。ですから、その部分を彼に書いてもらうことが大事でした。脚本を書く時、共同で作業を行うのは、とてもいい効果をもたらしたと思います。また、俳優からも力をもらいました。カリーナ・ラムさん、カイザー・チュアンさんはお二人とも結婚していらっしゃるので、夫婦の間ではどんな会話をされるか、こういう場面ではどんな風に振る舞うかなど、いろいろ教えてくださったんです」
 母と長女を中心に、家族4人に焦点が当てられた物語だけに、夫婦と二人の娘のキャスティングがとても重要だった。
「一つの家族のキャスティングというのはとても難しいものです。それで、重要度の高い役から選んでいくようにしました。まず核となるのはお母さん役なので、最初にカリーナ・ラムさんをキャスティングしました。その後、5ヵ月くらいかけてファンイー役を決め、それから3ヵ月くらいしてお父さん役を、最後に妹役を選びました。相当長い時間がかかりましたね。カリーナさん、カイザーさんについては結婚していて子供がいる、というのは大きな決め手でした。子供に対してどう向き合うのかという点で、やはり子供がいない人では表現しにくいのではと考えたからです。
 姉妹役は言葉ができるかどうかが重要でした。二人ともネイティブの英語が話せなければならず、それほどの英語ができるプロの子役はあまりいないので、言語面からキャスティングしていったら、たまたま映画未経験のケイトリン・ファンとオードリー・リンになったというわけです。彼女たちとはクラインクイン前の1、2ヵ月前からいろいろ話し合って、脚本を二人に合わせて修正することもできました。彼女たちの動きや話し方を見て脚本を変えていったんです。キャストによって監督が脚本を変更できる、というのは創作のとても重要な部分です。二人とも撮影現場ではリラックスしていました。特にケイトリンは、最後の厩舎の場面で本当に素晴らしい演技をしてくれたと思います。彼女の演技にはとても驚かされました」
 撮影を担当したのはギリシャ人のヨルゴス・バルサミス。彼もロアン監督同様に短編で評価を受けて、本作で長編デビューした。
「バルサミスさんはプロデューサーの一人、クリフォード・ミウさんとお仕事されていて、その縁からご紹介いただきました。作品について話してみて、この人なら単に外国人の視点からということではなく、雰囲気をうまく捉えて、きっと今までと違う新しい台北を撮ってくれるだろうと感じたのです。
 撮影に入る前、ロケハンに行った際、彼が最も重視したのは闇でした。すべての照明を消して、ロケーションを見ることにすごくこだわっていました。全く照明を点けないでおいて、すべてを白紙にしてそこから徐々に照明を点け、その場を作っていく手法を取っていました。いつもそういう風に照明を組み立てていましたね。例えば病院でのシーンで、彼は上の照明を消して、下から当てるといった特殊な照明設計をしたんです。それがとても効果的でした。実際とは違うわけですが、それが当時の病院の雰囲気をうまく出してくれたと思います。彼は脚本をより深化させるのに長けている人です」
 撮影だけでなく、美術担当のチェン・ユーシュエンの手によって、2003年当時の雰囲気が見事に再現された。
「私とユーシュエンさんは高校時代の同級生で、完全に同じ時代を生きてきたんです。この映画では家がとても重要でした。当時はLED電球がないですから、今も白熱電球を使っている家を彼女が見つけてきて、そこを撮影のために改造しました。床は2000年前後の雰囲気に作り変えて、小道具や家具などは私たち二人の家から持ち寄って作ったんです。観音様は私の家から持ってきて、ベッドは彼女の家のもの、シーツは私の母の嫁入り道具をといった感じで、ほぼ半分が私物です。写真も私たちが持ち寄ったものが多かったです。夫婦の結婚写真が壁に掛けてありますが、あれは彼女のご両親の結婚写真に、カリーナさんとカイザーさんの顔写真を合成したものなんです。パソコンの画面も昔はダイアルアップだったので、それもCGで作りました。音楽に関しても、当時の音楽を取り入れることで時代感を出すようにしたわけです。当時はジェイ・チョウがスターダムに上がる頃で、彼の所属会社が協力してくれました。そうやって2003年を再現していきました。どれもユーシュエンさんがいなければできなかったことばかりで、彼女には本当に感謝しています」

カリーナ・ラム

カリーナ・ラム
(林嘉欣)

どういうものを背負っていたかというのは、非常に重要なことなんです。

 本作で最初にキャスティングされたカリーナ・ラム。当初母親役には乗り気ではなかったが、脚本を読んで考えが変わったという。
「トム・リン監督から『とてもいい脚本だから、直感であなたがやるのがいいと思った』と勧められたんですが、その頃私は母親役を演じることに対して抵抗感がありました。というのは、一度母親役をやるとイメージが固定されてしまい、母親役ばかりくるということがよくあるので、避けていたんです。でも、脚本を読んでその考えが変わりました。3日に分けて脚本を読んだところ、最初は娘のファンイーに共感しました。それは私自身の境遇に似通った部分が多かったからです。次に夫婦の問題として捉える面白さを発見しました。3日目は母と子の視点から見ていきました。そうするとやはり私が演じるのが良さそうだと思えてきたんです。
 私はカナダで生まれ育ちました。個人が非常に重視されるカナダから台湾に戻り、昔からの礼儀が重視されるような台湾社会のルールが私には大きなプレッシャーに感じられました。また、当時は中国語もあまりできず、ほとんど英語を喋っていたこともあって、自分のアイデンティティーはどこにあるのか、ということに悩みました。社会に対する疑問、自分の人生に対する不安などから、まずファンイーに共感を覚えたんです」
 彼女が演じた母親リリーは、乳がんを患って娘二人をつれ、アメリカから夫のいる台北へと戻ってくるという役どころ。
「最初に香港でロアン監督とお会いした時、監督の自伝的作品なので『監督のお母さんのように演じたほうががいいですか?』と尋ねたところ、監督は『いいえ、リリーという人物を好きに作って演じてください』と言ってくださいました。そして、香港の作家・西西(シーシー)が、自分の乳がんの体験を基に書いた『哀悼乳房』という本を紹介してくれましたが、ほかに具体的に指示をされたようなことはありません。監督は私を信頼して、この役の大きな核となる部分を全部預けてくれたんだと思います。
 演じるにあたって、私は乳がんを患う女性を演じるためにいろいろリサーチをして、主に二人の患者の方にお話を聞きました。お二方とも子供を持つ母親で、そのうちのお一人は再発もしたということで、そういう時の気持ちや状況など、とてもプライベートなことを私に語ってくださいました。そうしたリサーチを通して私が感じたことは、彼女たちが向き合う現実というのは、脚本を超えるものがあるということです。そういったことを踏まえて私なりのリリーを演じていきました」
 また、映画では描かれていないリリーのバックグラウンドについて、監督とやりとりする中で彼女なりに考えたそうだ。
「彼女は親の期待を背負っていた一人っ子で、薬学部を出ていて、そろそろ30歳なんだから結婚したら、という周囲からの声を受けて、大学時代の同級生と結婚したわけです。彼女はその時は外資系の会社で仕事をしていて、子供はまだいなかった。もともとは夫婦でアメリカに行きたかったけれど、子供が生まれて仕事を辞めざるを得なくなり、夫が一人で家計を支えなければならなくなる。家を買うにしても、家に対するこだわりはあまりない夫は、自分の今の稼ぎでは無理だと言う。リリーのほうは劇中描かれたように、アメリカのレストランに子供を連れて行くような人で、生活に対する価値観が夫とは違うということがわかります。そういう彼女の背景を、監督とやりとりしながら考えて臨みました。これらについては、必ずしも映画の中で語られたりはしませんが、彼女がどういうものを背負っていたかというのは、非常に重要なことなんです。
 ほかにも、夫に『私が死んだらこうしてほしい』と頼みますが、夫は『死んだ時のことを口にすると、本当にそうなってしまう』と拒否します。そういう場面が、夫婦の価値観の違いを表しています。リリーは病気、そして死への恐れを持ち続けている。でも、夫はそれを避けて見ないふりをする。リリーの恐れが強くなるほど、夫は沈黙してしまう。女性観客とは、リリーが一人抱える苦しみを分かち合いたいですね(笑)」
 娘役のケイトリン・ファンとオードリー・リンは映画未経験だが、それだけに共演は新鮮だったようだ。
「彼女たちと一緒に映画を撮って、本当にたくさんの驚きがありました。飲み込みが本当に早くて、いろんなことをよく理解しているなと感じました。そして彼女たちは二人とも1テイクごとに全力で臨むんです。私たちベテランの俳優はそのあたりは緩急をつけて演じますが、彼女たちにはすべてのテイクが初めてで、毎回そのテイクしかないんです。私も彼女たちにすごく刺激されて、例えばドアを開けて声をかけるシーンで、それが10回目のテイクであっても、初めてだという気持ちでセリフを言いました。そうした中で私にとって一番難しかったのは、リリーという人物をごく平凡に演じることでした。今回のような役を演じられることはそうはないと感じて、全部のシーン本当に心を込めて演じたのです」

ケイトリン・ファン

ケイトリン・ファン
(方郁婷)

スクリーンに映っているのは私の顔ですが、違う人物なんです。

 演技未経験だったケイトリン・ファンが、ファンイー役のオーディションを受けたのは軽い気持ちからだった。
「監督とお会いした時はすごく緊張しました。オーディションは私以外にもたくさんの素晴らしい方々が受けていると聞いていたので、自分が選ばれるとは夢にも思っていませんでした。ですから、その時はまさか今のようなことになるとは想像もできなかったです。お父さんからも『受からなくても、いい経験になるから』と言われました。夏休みにちょっと試してみようかな、という程度の本当に軽い気持ちでした。
 ファンイーという人物は心の中で何かを思っていても口には出さず、まずは一度考えて状況を見ていくという人です。何か難しい事態になっても人には言わず、まずは自分の中に抱えておいて、その時々に応じて判断するという人物だと思います。私と似ているところもあります。実際の私も彼女と同じように、考えを人にはあまり言わないほうです。一方で、思っていることを突然両親に言って戸惑わせる、というところも似ていると感じました」
 初めての演技で悩むこともあったが、監督やカリーナ・ラム、カイザー・チュアンから受けたアドバイスが助けになったそうだ。
「似ているところはあっても、やはり彼女はどうしてこんな風に考えるんだろうと理解できないこともありました。なぜかなと考えたんですが、彼女と私では環境も違いますし、経験してきたことも違いますから。それで、なんでこんなことを言ったりしたりするの? と思うことはありましたね。そういう時は監督に相談しました。監督はご自身の経験を話してくださり、そうしたら彼女の気持ちが理解できるようになりました。
 お二人にもいろいろと助けていただきました。その中で、カリーナさんから『セリフをやみくもに覚えるのではなく、まず自分がその人の気持ちになってみて、相手のセリフも理解して、その言動に対して、自分がその人の気持ちだったらどんなことを言うか、と考えながら覚えると自然にセリフが入ってくるよ』と、アドバイスされたことをよく覚えています。カイザーさんからは、最後のほうで私がお父さんに叩かれるシーンで、言われたのが助けになりました。その時、私はすごく緊張していたし、自分の感情を爆発させるシーンだったので、恥ずかしさもあり戸惑っていたんです。そうしたら、『恥ずかしい気持ちを持ったらダメだよ。自分の気持ちを思い切り出し切らないとその感情はリアルなものにはならないから』と言われて、その通りにやったらうまくできたようです」
 初めてのことだらけで難しいことも多かったが、撮影は楽しかったという。
「馬とのシーンは難しかったです。動物との演技がこんなに難しいとは思っていませんでした。例えばお母さんとのシーンでは、何かあってもカリーナさんが役に入りやすいように何かアドバイスをくれたり、言葉をかけてくれたりして、それで役に入り込んでお芝居がスムーズになるということが結構ありました。でも、馬はそうはいかないですし、さらにこのシーン自体がとても重いシーンだったので、馬に会えて喜んでいる状態から、がっかりして感情を爆発させるという流れの中で、それを全部一人で表現しなければならず、そこが難しいなと感じました。でも、馬自体は、撮影前に乗馬のレッスンを受けていて仲良しになっていたので怖くなかったです。それに、実際は撮影現場にはスタッフがいて、監督も目の前にいてくれましたから安心してできました。
 印象に残っているのは、妹と一緒に夜、外でお菓子を食べるシーンです。あの時はすごく静かでした。とても好きなシーンです。撮影現場ではオードリーさんとずっとおしゃべりして、いつも楽しく過ごしました。実際には私には兄が二人います。今回初めて自分の私生活とは違う、妹がいる一番上の子供というのを体験してみて、上の子は本当に大変なんだなと感じました(笑)」
 初出演の映画で演技が絶賛されて俳優として歩み出した、今の心境を語ってもらった。
「出来上がった映画を初めて見た時、まずは達成感を感じました。撮影から1年経っていたので、やっと完成したんだなと感慨深かったです。同時にすごく不思議な感じがしました。スクリーンに映っているのは私の顔ですが、違う人物なんです。それがなんだか不思議でした。パパとママは撮影中ずっと一緒だったので、このシーンはカットされたとかここは残っているとか、すごく細かく映画をチェックしながら見ていました。友だちはまず私が登場した時にもう感動して、そこから最後までずっと泣きっぱなしだったそうです。
 一番大きな変化は、映画や演技に対する考えが変わったということです。今は映画を見る時に、よく観察してしっかり考えながら見るようになりました。本当に少しだけですが、自分の中に責任感のようなものが生まれたのかもしれません。今後は実際には出会えないようなことや人を、きちんと理解して演じていきたいです」

オードリー・リン

オードリー・リン
(林品彤)

監督が考えてくれて本当に家族のようになりました。

 次女ファンアン役のオードリー・リンは多くの舞台経験があるが、映画は初出演だった。
「今回映画に出て初めて経験したことがいろいろありました。映画はテイクをいっぱい重ねるんだなと思いました。舞台だと観客の前で1回しかお芝居できない、そこが面白いです。逆に映画だと何度もテイクを重ねる中で自分のお芝居を作り上げていく、それも面白いと感じました。監督や家族(役)の人たち、スタッフの方々が皆さんとても素晴らしい人たちで、私に安心感を与えてくれて、すごく心地よい中でお芝居をさせてくれました。カメラの前で緊張することはありませんでした。家族の人たちとは皆でご飯を食べたりボウリングに行ったりと、そうやって過ごせるように監督が考えてくれて本当に家族のようになりました。
 家のシーンはどれも大好きで、最後のほうにはまるで自分の家のように感じられたくらいです。特に大好きなのはお父さんの白髪を染めるシーンです。あの撮影をした時はもう後半で、皆の息も合っていて、誰かが何かを言ったらそれを自然に受けるといった感じで、本当の家族のような様子が表現できたと思います。撮影の合間にはお父さんがマジックを見せてくれたり、面白い話を聞かせてくれたりしました。その日は撮影が終わって家に帰って、『今日は最高だった!』と家族に話したことを覚えています」
 自分の妹を参考に役作りしたオードリー。友人も彼女の映画出演をとても喜んでくれたという。
「私には妹がいて、彼女を観察して役を作り上げていきました。ファンアンはすごく可愛い子供の一方で、大人っぽいところもあって、特にそういう部分は妹を見て作っていったんです。病院で肺炎の検査をするシーンでは、人に唾がかかるのも気にせず咳をする、という演技をしたんですが、それは妹が咳をしている様子を研究して取り入れました。ファンアンは、私自身に似ているところがあります。人をじっくり観察している点や、時にお姉さんに『お母さんのことをもっと考えてあげたら』とか『そんなに怒らないで』とか、意見するところなんかです。
 映画が完成して、貸し切った劇場で友だちが見てくれたんですが、みんなが私の映画をすごく喜んでくれて、中には何度も見てくれた人がいました。周りで映画に出た人はいなかったので、皆すごく不思議に感じたようです。その後、また映画に1本出ましたが、私自身の生活がすごく変化したという感じはなくて、普通の生活に戻れて嬉しいなって感じです(笑)」

カイザー・チュアン

カイザー・チュアン
(荘凱勲)

娘はそういう無償の愛の対象なんです。

 この年代の普遍的な父親像を演じたカイザー・チュアン。今回のフェイ役を通じて、父について理解が深まったそうだ。
「今回この役を演じ、そして自分も父親になってみて、より父について理解できたと感じています。私の親もですが、この年代の父親というのは経済的に苦しい中でも、子供たちにいい教育やいい生活を与えたいと努力していました。子供たちのために一生懸命に働いても、普段は厳しくて愛情表現はしない、というのが台湾の父親でした。こうした父親像は東洋人全般にあてはまるかもしれません。私はよく日本のアニメを見るんですが、『ちびまる子ちゃん』や『ドラえもん』のお父さんは家庭では存在感がないですよね。子供が生まれたらお父さんは家の隅にいる宇宙人みたいで(笑)。
 私自身は息子が4歳で娘が1歳なんですが、二人に対する自分の気持ちがすごく違うと感じます。息子には兄弟のように接していますが、娘には無条件に愛を注ぎたいという気持ちです。ただ、映画の父と娘の関係が示すように、父親は娘に対しては時に性別の壁があって、娘の心の奥深くに触れることはできないんですよね。それでも、母親との関係のように深くはなれなくても、とにかく愛を与えたいんだと思います。劇中、父はファンイーを怒っても結局は勉強机よりもドレッサーを買ってあげたり、すごく叱った後に自転車を買ってあげたりします。娘はそういう無償の愛の対象なんです」
 乳がんを患う妻リリーに対する夫でもあるフェイ。身内で闘病していた人に接した経験を生かしたという。
「私の身近にがんで5年闘病した人がいて、その人を見ていてわかったことや感じたことを役に生かしました。人はどんなに金持ちでも貧乏でも命は一つで、生死の問題に向き合った時は誰でも無力だと感じました。その身内の人は強い気持ちで闘病していましたが、リリーはすごく繊細で病気を怖がっています。ですから、夫が一緒になって病気を恐れてしまったら、家族がダメになってしまうので、彼はあえて妻の恐れに向き合わず現実逃避のような方法を取ったのだと考えました。フェイは仕事のために家を空けがちで、リリーをそばで支えるのが難しかったので、彼女は孤独だったんです。
 撮影が終わって、監督に『ご両親は今はどんな状態ですか?』とそっと聞きました。そうしたら『子供が独立したら、昔に戻ったかのように仲良くなりました。今すごくロマンティックな時間を過ごしています』ということでした。ですからリリーとフェイも時を経れば、そうなるのではと思いますね」

STAFF

監督 ロアン・フォンイー(阮鳳儀)

1990年5月20日、台湾生まれ。97年に母と1歳下の妹と共に米オレゴン州に移住し、2003年に台湾に戻る。国立台湾師範大学付属高校時代、国語教師の影響でヨーロッパ映画への関心を深め、フランス映画が好きだったことから、国立台湾大学入学前に休学してフランスに2年間留学。帰国後、大学の中国語文学部で学びながら、日々映画を見る生活を送る中で独自に脚本を書くようになった。 14年に短編映画「スミアチェック(抹片検査)」を手掛け、翌15年に本格的に映画について学ぶため、ロサンゼルスのアメリカン・フィルム・インスティチュートに入学。映画製作の修士号を取得し、17年に卒業した。自身のアメリカ生活の体験を基に監督した短編映画「おねえちゃん JieJie」が、18年の国際短編映画祭「ショートショート・フィルムフェスティバル&アジア 2018」の最優秀観客賞、高雄電影節の特別審査員賞、HBOアジアンアメリカン・ビジョンアワードを受賞。40以上の国際映画祭で上映され注目を集める。これがきっかけで、金馬奨の脚本ワークショップに参加し、中学時代の自身を投影させた本作「アメリカから来た少女」で長編デビューを果たした。「スミアチェック」の時からアドバイスを受けていたトム・リンが製作総指揮を務めている。他の短編作に「Sophia Dreams」(15)「The Bomb」「Rocks」(16)がある。

撮影 ヨルゴス・バルサミス

1991年、ギリシャ西部のケファロニア島に生まれる。アテネ経済商科大学に進学し金融を専攻。半年間アイスランドで過ごし、世界から隔絶したような絶景に感銘を受けたのがきっかけで2013年から趣味で写真を始める。その後、映画撮影へと興味の幅を広げ、ヘレニック・シネマ&テレビジョンスクールスタブラコス校に学んだ。多くの短編映画でキャリアを積み、撮影を担当した「僕たちと空のあいだ(The Distance Between Us and the Sky、ヴァシリ・カカトス監督)」と「I Am Afraid to Forget Your Face(サメハ・アラア監督)」の2作が 19年、20年のカンヌ国際映画祭短編パルムドールを獲得。 20年には香港の張林翰監督の短編作品「島嶼故事(Last Ferry From Grass Island)」がトライベッカ映画祭で審査員特別賞を受賞。同作に続いて、クリフォード・ミウ(苗華川)がプロデューサーの一人を務めた本作で長編作品を初めて手掛け、第58回金馬奨最優秀撮影賞に輝いた。最新作は韓国系アメリカ人のクリスティーナ・ユン監督、キム・テウ、ホン・ギョン主演の短編作「Motherland」。

CAST

カリーナ・ラム

カリーナ・ラム
(林嘉欣)

主人公の母親役リリーを演じる。1978年8月17日、カナダ・バンクーバーに生まれる。15歳の時にカナダでスカウトされたのがきっかけで、台湾のコンテストに参加し芸能界入りした。ジャッキー・チュンやレオン・ライなど、有名歌手のミュージックビデオに出演した後、1995年に歌手デビュー。ただ、当時は中国語があまり得意でなかったこともあり、台湾の芸能界に馴染めなかったという。そうした時期を経て、アン・ホイ監督の香港映画「男人四十」(02)に出演。ジャッキー・チュン演じる教師と関係を結ぶ女子高生役に抜擢され、期待に応える演技を見せて、第39回金馬奨、第21回香港電影金像奨で最優秀新人賞、助演女優賞を受賞。その後は香港を拠点に多数の映画に出演。
「怪物」(05)や「親密」(08)の演技は高く評価された。2010年、CMディレクター、スティーブ・ユンと結婚し女児を出産。13年には次女が誕生した。その後も活発に活動を続け、日本でも公開されたヒット作「百日告別」(15)では第52回金馬奨の最優秀主演女優賞を獲得。夫が監督・脚本を手掛けた「暗色天堂(Heaven in the Dark)」(16)も、第35回香港電影金像奨でノミネートされるなど高く評価された。また、ジャッキー・チュンとの14年ぶりの再共演も話題を集めた。演技活動のかたわら、子供のための絵本の創作も行っている。その他の主な作品に「カルマ」(02)「恋の風景」(03)「パティシエの恋」(05)「シルク」(06)「キャンディレイン」(08)「恋人のディスクール」(10)「ホワイト・ストーム2」(19)などがある。

カイザー・チュアン

カイザー・チュアン
(荘凱勲)

父親役フェイを演じる。1981年3月22日、台湾生まれ。国立台北芸術大学演劇学科で演技を学び、卒業後は舞台を中心に活動しながら、2005年よりドラマや映画にも出演するようになった。11年のドラマ「波浪而出(Breaking Free)」で第45回金鐘奨助演男優賞にノミネートされて認知度が上昇。舞台で培った演技力には早くから定評があり、15年には「回家路上(The Road Home)」で第50回金鐘奨最優秀主演男優賞を、16年には「菜鳥(Maverick)」で第18回台北映画祭最優秀助演男優賞を受賞し、さらに評価を高めた。他の主な作品にドラマ「ダーダオチェンの夢」(16)「歩道橋の魔術師」(21)、映画「目撃者闇の中の瞳」(17)などがある。豊川悦司、妻夫木聡主演の映画「パラダイス・ネクスト」(19)では殺し屋役を務めた。

ケイトリン・ファン

ケイトリン・ファン
(方郁婷)

主人公のファンイーを演じる。2006年5月16日、アメリカ生まれ。両親と2人の兄の家庭で2歳から台湾で育ち、インターナショナルスクールで学ぶ。演技経験はなかったが、バイリンガルの少女を探す本作のキャスト募集を知った母親に勧められてオーディションに参加。オーディション用の映像を撮る際は父が助けてくれたという。その結果、他の子供たちと一緒に演技クラスに加わることになり、最終的に20人の中から主人公のファンイー役に選ばれて映画デビューを飾った。みずみずしい演技は多くの人の心を摑み、“SSR(Superior Super Rare=特級レア)新人”と絶賛され、第58回金馬奨と第24回台北映画祭で最優秀新人賞に輝いた。映画に続いて、5人組バンドWendy Wanderの「讓我住進你心裡」はじめ、3本のミュージックビデオに主演。

オードリー・リン

オードリー・リン
(林品彤)

次女のファンアンを演じる。2011年、オーストラリア生まれ。1歳の時に家族と台湾に戻る。7歳で劇団に入り、多くのミュージカルに出演し経験を積んできた。妹役のキャスティングが難航する中で、バイリンガルで舞台経験があることが買われ、撮影開始1ヵ月前に起用が決まった。映画は初めてながら、5歳年下の妹を参考に演じて監督の期待に応えた。現在は台北歐洲学校に通っている。歌やダンスのほか、物語を書くことにも興味があるそうだが、演技に対する関心が最も高いという。第24回台北映画祭ではケイトリン・ファンと共に最優秀新人賞にノミネートされた。

「アメリカから来た少女」
4つのポイント

1. 圧倒的な映像の力

*

台湾の空港に降り立ち、バゲージクレームで荷物が出てくるのを待つファンイーが見せる、不安と不満が入り混じったような眼差しが見る者をまず強く惹きつける。そして、彼女の置かれた状況が髪型や服装の変化で表される。レゲエ風の自由な雰囲気の髪型やTシャツなど、アメリカ帰りというのが一目瞭然だったファンイーが、髪を短く切って制服を着るだけであっという間にどこにでもいる台湾の女子中学生になるのだ。わずかな照明で映し出される家の中の映像は、そんな彼女の心情を反映するかのように暗い。カメラマンのヨルゴス・バルサミスは、実際そこにある照明器具だけを使用して撮影することを心がけたという。陰影の濃い映像の中に、彼らそれぞれの複雑な思いが浮かび上がる。また、オレンジ色の街灯に照らされた夜の風景も印象的だ。特に、ファンイーが馬に会いに行くシーンは、映画らしい詩情あふれる幻想的な美しさに満ちている。ぜひスクリーンで堪能したい。

2. 少女の痛み 母の弱さ

*

5年の間にすっかりアメリカに馴染んでいたファンイー。病気の母親が心配ではあるものの、台湾で窮屈な学校生活を強いられ、全ては母のせいだと不満を抱く。親を失うかもしれないという恐怖や、心の痛みを和らげるためには、母に対して怒りを爆発させるしかない。母は母で不調ゆえに苛立ち、配慮が足りない娘に対して当たり散らしもする。さらに「自分は長生きできない」などと言う。親が子供に向かって口にするにはあまりに残酷な言葉だが、重病を患えば誰しも気弱になるのは当然だ。親だって完璧ではないのだし。でも、13歳ではそれを理解するのも難しい。誰かの正否を問うことなく、病や死が露呈する人の痛みや弱さを、静かに見つめる目が心に残る。

3. 4人の俳優の見事なアンサンブル

*

まるで実の家族のようなリャン家の人々。アメリカから戻った娘たちと1年ぶりに会う父親との間は、最初大分開きがあるように見える。だが、母との溝が深まる一方で、次第に父と娘は距離を縮めていく。出張から戻った父の髪を、娘たちがはしゃぎながら染めるシーンはなんとも微笑ましい。娘たちを演じた二人にとって、これが初の映画であり、ファンイー役のケイトリン・ファンに至っては演技自体が初めてだったというのが驚きだ。自身も2女の母親であるカリーナ・ラムは、撮影前に彼女たちと多くの時間を過ごしたという。カイザー・チュアンも交え、密接な関係を築けたことで、4人が本当に家族としてスクリーンの中で生きているのだと感じさせられる。

4. 台北の街と家、その時代を再現

*

2003年、SARSの猛威が振るっていた時期を背景にした本作は、当時の様子が見事に再現され時代を感じさせると評判になった。パソコンのインターネット回線はダイアルアップ接続で、今からすれば遅いことこの上ない。ファンイーと友人が訪れる本屋ではジョリン・ツァイの「説愛你」が、ファンイーが一人で入ったインターネットカフェではジェイ・チョウの「安静」といったヒット曲が効果的に使われた。また、彼女たちが話題にするトニー・スンは “台湾のSMAP”と呼ばれたグループ「5566」のリーダーを務めた有名歌手。妹アンの愛読書はその頃人気だった日本原作の少女漫画だ。これら、台湾の人々を一瞬でその時代に引き戻すアイテムがちりばめられている。

THEATER