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パク・チワン

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夏目深雪


多様性のある女性のストーリーが、
やっと世に出るようになりました

女性監督の台頭が目覚ましい韓国映画だが、また一人才能のある女性監督が登場した。一見韓国でよく撮られてきたミステリーかと思いきや、女たちの思わぬ絆に胸を震わせられる。百想芸術大賞映画部門で最優秀脚本賞を受賞した「ひかり探して」、監督のパク・チワンにインタビューを行った。

――島が舞台ということで「ビー・デビル」を、奮闘する女刑事ということで「凍える牙」を想起しました。島と女刑事、少女も出てきてシチュエーション的には非常に似ている「波高」もありましたね。いずれも、島の閉塞的な環境・ミソジニーの中で女刑事が苦労し、少女も陰惨な状況に置かれています。あなたの映画とかなり違いますが、このシチュエーションを選んだ理由は?

私はスリラーやミステリーといったジャンルが非常に好きです。長編第一作目をそのようなジャンルで撮りたいと思っていましたが、今までの作品と違う方向性にしたかった。スリラーとして物語は始まるんですが、今までとは少し違ったものを見せたい、観客は観終わった後に今までとは違った場所に到着しているようなものを撮りたかったんです。

――クリシェをひっくり返す脚本が緻密で素晴らしいと思いました。

どんでん返しがありますが、観客を驚かせようと思ってやったものではないんです。ヒョンスは他の刑事とは違うアプローチで事件を解決するので、論理的というより、個人的・感情的な結論と言えるでしょう。その過程を観客のみなさんに一緒に感じて欲しいと思って脚本を書きました。

――島が舞台のこういったクリシェは、韓国映画の伝統としてあるのでしょうか。それとも事実を反映しているのでしょうか。

確かに韓国映画は島が背景となる印象的な映画が多かった気がします。ただ撮る側も観客も、数としてはソウルのような都市に住んでいる人たちの方が多いです。都市に住んでいると、隣に誰が住んでいるのか分からないような環境です。ただ、逆にそれが安全な面もあるような気がします。島は確かに閉鎖的なところもあるので、何か事件が起きると、それを隠蔽したりすることも可能です。島を舞台にする時は、そのような機能の面で、好んで使う監督が多いのではないかと思います。

私としては、島の風景がとても気に入ったんです。船でしか行けないところをロケハンで回っている時に、陸続きの場所とはやはり違うことを肌で感じました。

――ヒョンスを演じるキム・ヘスは、「国家が破産する日」での通貨危機とミソジニーの中で孤高奮闘する姿が印象的でした。脚本は彼女の当て書きをしたということですが、どんなところを彼女に託したかったんでしょうか。

キム・ヘスさんは私が子供の頃から大スターでした。着実にフィルモグラフィーをこなしていくなかで、強烈なキャラクターを演じることが多かったと思います。「タチャ イカサマ師」や「コインロッカーの女」などですね。私は彼女の悲しい目や綺麗な手が好きなんですが、その辺りをちゃんと見せたいという想いがありました。

もう一つ、刑事は専門職ですよね。キム・ヘスさんが演じてくれることによって、観客は自然と「ベテランで仕事がよくできる警察官なのだろう」と信頼を寄せることができる。

――ヒョンス、イ・ジョンウン演じる聾唖の女、セジンの3人のアンサンブルも素晴らしいですね。年齢も立場も違う3人の女性の心が繋がるところがこの映画の最大の美点だと思います。ラスト、聾唖の女に逢いに行くヒョンス、セジンとヒョンスの各シークエンスは女優たちの表情の変化が本当に感動的です。撮影や演出、演技指導で留意したことは?

セジン役のノ・ジョンウィさんも子役出身なので、私が一番映画の経験が少ないくらいなんです。ですので、演技指導というよりは、シーンごとに話し合って、私としてはこのシーンはこんな風に見せたいということをお伝えしました。

この映画は感情を爆発させるよりは、感情を抑えることが重要でした。リハーサルをする際にも、どの位感情を抑えたらいいのかを話し合いました。意見の違いがあった時は、まずは俳優さんたちが考える演技のバージョンをやって頂いて、それを見ながら話し合ったりしました。

仰ってくださったヒョンスが聾唖の女に逢いに行くシーンはスタッフ、俳優たちともども楽しみにしていて、また私自身最も期待し、緊張していたシーンでもありました。あのシーンはリハーサルの時から俳優さんたちの感情が高ぶっていたので、少し抑えるようにお願いしました。

ヒョンスとセジンのシーンですが、シナリオのモニターをした時に、このシーンはいらないんじゃないかと言われたりもしたんですが、しっかり撮らないといけないと思っていました。私にとってはとても意味のあるシーンです。あのシーンは2人ともが、セカンドチャンス、2回目の人生をスタートさせたばかりの時なんです。その顔をしっかり捉えなければと思いました。

――近年の韓国映画界は、「はちどり」のような女性監督による自伝的な映画が多くの賞を受賞したり、男性監督によるものであっても、「サニー 永遠の仲間たち」や、「サムジンカンパニー1995」など、懐メロや懐かしいファッションを使って女性たちの連帯を表し大ヒットしたものもありました。あなたはこの脚本に8年もの期間を費やしたとのことですが、その辺りのムーブメントはどんな風にご覧になっていましたか?

私は2007年に韓国映画アカデミーに入学しました。その頃は短編映画祭が盛況で沢山の女性監督が入賞していたので、私も卒業したら女性監督の仲間入りができると期待していました。ですが、卒業しても、その女性監督たちの映画の知らせがない。私は卒業してから商業映画のスタッフになったんですが、そこでも彼女たちは見当たらない。

ですので、今女性監督が韓国では増えていますが、私から見ると少し遅い感があります。女性のストーリーはもともとあり、なかなか世に出ることができなかった。今になって多様性のある女性のストーリー、今まで溜まっていたそれらがやっと世に出るようになったのではないかとこれからも期待しています。

「はちどり」にしても「サムジンカンパニー1995」にしても、昔の話になりますよね。「82年生まれ、キム・ジヨン」のように現代の話になると、論争になってしまったり、まだまだ解決しなければいけない問題がある。ただそれは否定的に捉えることではなく、自然なことだと思います。自分たちの母親の世代や自伝的なことを描くのは、クリエイターとしては欲が出るところだと思います。

――女性監督や女性のストーリーが出てくるのが遅かったのは、2000年代に韓国映画が世界を席巻した時に、パク・チャヌク監督やキム・ギドク監督など男性主体の物語が中心だったことが尾を引いているんでしょうか。

私も当時の韓国映画を観て映画を作りたいと思ったので、当時は男性/女性のストーリーという考えは持っていなかった気がします。ただ単に面白いストーリーだと思った記憶があります。

ただ、韓国社会が変わるスピードは決して遅くはないです。もう少し経ったら、これは女性監督の作品だ、女性のストーリーだ、というような言い方さえなくなる日が来るのかもれしません。ただ単に「パク・チワン監督の面白い作品だ」と。それが私の願いでもあります。

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「ひかり探して」


「ひかり探して」

監督・脚本:パク・チワン
出演:キム・ヘス/イ・ジョンウン
2020年/116分/韓国
原題:The Day I Died: Unclosed Case
配給:スモモ、マンシーズエンターテインメント

1月15日(土)より渋谷 ユーロスペースほか全国順次公開


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