MOVIE / COLUMN
「あなたを、想う。」公開 連載(全3回)
「女優と監督の間」
第3回 映画人シルヴィア・チャン

これまで2回にわたって、女優であり映画監督であるシルヴィア・チャンについて言及してきたが、彼女に肩書きをつける場合、本当なら“映画人”が一番相応しいのではないだろうか。女優も監督も広義では映画人だから、というよりも、その活動の幅広さに加えてプロデューサー的な役割を担うことが多分にあるためだ。

1979年、映画監督やテレビ関係者などと共同で映画会社を設立。後に香港のみならず中華圏を代表する存在となるアン・ホイ監督のデビュー作「瘋劫」を製作し主演した。監督こそしていないが、すでにこの時点で映画全般に深く関わっていこうとしていたのがわかる。そして、2年後の1981年に自身も監督デビュー。この年はそれだけにとどまらず、3本の映画に出演し、そのうちの「我的爺爺」で金馬奨主演女優賞を受賞。さらには「十一個女人」という11話から成るTVドラマシリーズのプロデュースを手がけ、その一編「浮萍」の監督にエドワード・ヤンを起用した。これが評価されて、彼はその翌年のオムニバス映画「光陰的故事」の中の「指望」で映画監督デビューを果たす。エドワード・ヤンを世に出したのはシルヴィアだった。

起用のいきさつについて尋ねると「当時の台湾には、彼のような留学組をはじめ、優れた助監督がたくさんいました。そういう人たちに才能を発揮してもらい、TVドラマを撮ってもらったらどうかと思ったんです。その頃、私はシネマシティという映画会社の責任者になっていたこともあり、私がヤン監督に1本撮らせようと主張して実現したというわけです。監督がアメリカから台湾に戻って初めて撮った作品で、TVドラマでしたがカメラは1台で、映画の撮影のようでしたね」と、他の監督の名前も挙げながら詳しく話してくれた。

シネマシティは80年代の香港映画界をリードした映画会社。チョウ・ユンファやレスリー・チャンらの数々のヒット作をはじめ、シルヴィアの「悪漢探偵」シリーズでもお馴染みだ。演技や演出だけでなく、人の才能を見出すことにも意欲的な彼女の姿勢が買われたのだろう。一時は台湾支社の責任者も務めたが、1984年にその職を辞している。台湾の文芸作品に力を入れようとする彼女と、娯楽映画路線の香港の本社との考え方が折り合わなかったためのようだ。

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「悪漢探偵」

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「香港、華麗なるオフィス・ライフ」

シルヴィアによれば「香港の映画界はなんでもスピードが早いです。そしてストレートです。ハリウッドや欧米の影響をかなり受けているんでしょうね。一方、台湾はどちらかというと人文主義で文学的でテンポが緩やかです。でも、今はどちらも似たり寄ったりですね(笑)。世界がみんな同じになっています。みんなハリウッド映画に席巻されて、世界各地が破壊されているような気もします」とのことだ。

そんな世界に彼女は自分の映画言語で立ち向かう。「今、若い人に私の映画が受け入れられなくても大丈夫。きっと何年か経ったらわかると思うんです。私の息子がちょうどそうでした。昔は私の映画を見てわからないと言っていたのが、今ではわかるようになったと言います。ですから、わかってもらえる自信があります」と語る彼女は、とにかく映画が好きだから辞めたいと思ったことは一度もないそうだ。今では映画に限らず、舞台や朗読などの領域にも活動が広がっている。2015年に出演した「香港、華麗なるオフィス・ライフ」は、2009年に彼女が脚本・主演を手がけた人気舞台劇が原作。2012年には若手ピアニストの嚴俊傑と共同でミュージカルのプロデュースも行った。

また、2019年のベネチア国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞したアニメーション作品「No.7チェリー・レーン(繼園䑓七號)」に声優として参加したことで、声の表現に大いに興味を持ったのだとか。ちなみに監督・脚本のヨン・ファンとは、過去に監督作品に主演しただけでなく、シルヴィアが監督の「美少年の恋」をプロデュースしたという縁もある。今後は声優や朗読など声の仕事にも力を入れたいと語った通り、この秋は再び嚴俊傑と組んで、ピアノと彼女の朗読でクラシック音楽をより身近に感じさせるステージを企画・上演した。

考えてみれば、多くの台湾・香港のスター同様、シルヴィアも歌手活動をし、多くのアルバムを出してきたのだから、声で表現することに関心を抱くのは当然と言える。そんな彼女だけに映画音楽や主題歌にもこだわりを持っていて、「あなたを、想う。」では旧知の仲の女優レネ・リウに主題歌を託した。彼女の知的で穏やかな声が、映画の深い思いを伝えると考えたという。当時妊娠中だったレネ・リウは快く引き受けたが、シルヴィアが作詞家に歌詞の修正を何度も要求して完成に時間がかかって、いざ録音という日に分娩室に入ることになり、出産後間もなくようやく録音に漕ぎ着けたそうだ。妥協を許さない“映画人”シルヴィア。彼女が立ち止まる日が来ることは当分なさそうだ。

Written by : 小田香


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