*

CULTURE / MOVIE
いつまでも心の中でリフレインさせたくなる楽曲の数々

*

現代台湾映画界を代表するひとりと呼んでいいだろう。ウェイ・ダーションが「セデック・パレ」以来6年ぶりとなる監督作「52Hzのラヴソング」を完成させた。超大作を手がけた映画作家は、その後、可憐な作品に向かうものなのだろうか。たとえば、フランシス・フォード・コッポラ。あの「地獄の黙示録」で心身ともに疲れ果てた彼が次作に選んだのは「ワン・フロム・ザ・ハート」という佳品だったが、ウェイ・ダーションもまたここで愛らしいミュージカルを披露している。

*

バレンタインデーの台北を舞台に、音楽と花に彩られた恋愛群像劇が展開する。出逢いもハッピーなら、すれ違いもハッピー。風刺や皮肉を一切介在させず、人と人との交差そのものを真っ当に肯定していく筆致は純朴そのもの。そこには、たとえば「ラ・ラ・ランド」のような狡猾な作劇は見当たらない。とはいえ、後ろ向きの郷愁に浸っているノスタルジックな映画というわけではない。

*

特筆すべきは、女性同士が結婚するエピソードをさり気なくも丁寧に見つめている点だ。しかも、彼女たちを「護られる存在」として擁護するのではなく、むしろ、この世界を「護る存在」として讃えているところに、この監督の独自性と現代性が垣間見られる。耳に馴染み、いつまでも心のなかでリフレインしたくなる楽曲も多く、小品ながらきっと語り継がれていく愛すべき作品である。

Written by:相田冬二


「52Hzのラヴソング」(2017 台湾)
監督・脚本:ウェイ・ダーション
出演:リン・ジョンユー/ジョン・ジェンイン/スミン/チェン・ミッフィー/リン・チンタイ/シンディ・チャオほか

12月16日よりユーロスペースほか全国公開
http://www.52hz.jp/

(c)2017 52Hz Production ALL RIGHTS RESERVED.