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「熱帯魚」

CULTURE / MOVIE
A PEOPLE CINEMA「台北暮色」も上映
「台湾巨匠傑作選2019〜恋する台湾〜」

2018年はかつてない大盛況の上に幕を下ろした<台湾巨匠傑作選>。恒例の特集上映が今年も開催される。第4回目となる<台湾巨匠傑作選2019〜恋する台湾〜>はサブタイトルにあらわれているように、テーマは恋愛映画の系譜。セレクションは、台湾ニューシネマから現代まで多岐に渡り、いつ観ても古びないエバーグリーンな作品を集結させたという。

上映作品は全21本。見渡すと、わたしたち日本人にとって台湾映画は清涼感のあるポップソングに近い感触があることに気づかされる。飲みもので言えば、クリームソーダ。鮮やかな色彩の炭酸水の上に、ボリュームのあるアイスクリームがのっかっている。そんな満足感を与えてくれるものが多い。もちろん、監督ごとに特色はまるで違うが、映画を観終えてもたらされる清々しさは、映画に宿ったお国柄であり、普遍的な美意識とセンスでもあるだろう。

チェン・ユーシュンの「熱帯魚」と「ラブゴーゴー」が共にデジタルリストア版で初公開されるのは大きなトピックだ。この2作はたとえばウォン・カーウァイが「恋する惑星」と「天使の涙」を立て続けに放ったときのように、鮮やかな印象を観客に与えた。とりわけ「熱帯魚」は社会のアウトサイドで起こる奇妙な出来事の行方を、社会問題も交えながら活写していながら、その語り口と映像感覚がフレンドリーなポップ性にあふれていて、台湾ならではの遊び心に気分が良くなる佳作。

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「ラブゴーゴー」

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「風櫃の少年」

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「恋恋風塵」

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「クーリンチェ少年殺人事件」

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「青春神話」

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「愛情萬歳」

だが、恋愛映画というより青春映画こそが、ここに集められた台湾映画群の神髄かもしれない。ホウ・シャオシェンの「風櫃の少年」「恋恋風塵」も、エドワード・ヤンの「クーリンチェ少年殺人事件」も、そのふたりの共作とも言える「台北ストーリー」も、男女の色恋が描かれてはいても、すべては青春という呼称のほうがふさわしい。タイトルからしてまさに、の「青春神話」はツァイ・ミンリャンのデビュー作だが、それに続く「愛情萬歳」も実は青春の陰影こそが主眼と言えるかもしれない。

21世紀以降の若手たちの作品にはいずれもファンタジーのテイストがある。「藍色夏恋」にしても「台北の朝、僕は恋をする」にしても「星空」にしても「あの頃、君を追いかけた」にしても「若葉のころ」にしても、拠って立つジャンルは違うのに、ファンタジーという包装紙でくるまれたギフトの趣がある。

ホウ・シャオシェン、エドワード・ヤンらの時代から現在に至るまで通底しているのは、映画が純情を描いていることだろう。本特集上映が掲げる<恋>とは、純情のことかもしれない。

その意味では、先行するどの台湾映画とも違うホアン・シーの「台北暮色」が、台湾映画ならではの純情の最新形をあらわしていて興味深い。

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「藍色夏恋」

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「台北の朝、僕は恋をする」

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「星空」

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「あの頃、君を追いかけた」

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「若葉のころ」

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「台北暮色」

Written by:相田冬二


「台湾巨匠傑作選2019〜恋する台湾〜」

4月20日~5月10日 新宿ケイズシネマ