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CULTURE / MOVIE
台北の現在をトレース
「台北セブンラブ」

これは20年後の「恋愛時代」ではないか。幕開け早々、そうつぶやくシネフィルがいるかもしれない。「エドワード・ヤンの恋愛時代」ならぬ「チャン・ホンイーの恋愛時代」。日本初登場となるこの監督の名前をタイトルにとりあえず冠してしまいたくなってもおかしくはない。あるいは、ある者は連続ドラマの連続性をぎゅっと2時間以内に押し込んだ手際の良さと華やかなバックステージ模様に往年の日本産「トレンディドラマ」を想起もするだろう。また、別の者は、登場人物たちの異様な早口に庵野秀明の「シン・ゴジラ」からの影響を指摘するのではないか。群像劇ともオムニバスとも異なる語り口と構造は、様々な映画群を召喚する。

おそらくは雑食であるに違いない台湾の新鋭チェン・ホンイーは、これみよがしな作家性を誇示したりはしない。CMやMVのディレクターとして大量の作品を世に放ってきた彼は、スタイリッシュな画質やリズム、登場人物名を章タイトルのように用いたり、世界各国のデザイナーたちの名言、CMのコピーライティングを挿入する手法を新規なものとしてではなく、SNSのフォーマットのように「ありふれたもの」として提示して、あるデザイン事務所を舞台に7人の男女の悲喜こもごもを並べてみせる。それぞれのエモーションを丹念に拾い上げながらも、それらを渦巻かせることなく、あくまでもフラットに配置して、1枚のポップなイラストレーションを完成させる。つまり、中途半端なアートではなく、確固たる商業主義に根ざした潔さ。

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デザイナー集団のプレゼンをめぐる「スモールサイズ」のストーリーは、ワンポイントCGでスパイスを効かせたり、やんわりとメタフィクショナルな仕掛けをぶち込んだりはするものの、根源的に拡張していくことはない。ここで繰り広げられているのは大仰なインスタレーションではなく、ピース少なめのジグソーパズルなのであり、全体を象徴する「ラッキーセブン」という数字のわかりやすさも、そこに帰着するだろう。

オシャレな業界に棲むひとびとの、プライドがあるからこその愚かしさ。自意識過剰な転倒のあれこれが、色恋の打算とままならなさに同じ価値を与える。恋とデザインの親和性を羽ばたかせるファッショナブルな筆致はむしろ、ここに登場する人物の「かっこ悪さ」こそを浮き彫りにし、「それでもいいじゃん」と肩に手を置く低姿勢のエモーションに奉仕する。

たとえば日本の中島哲也や大根仁とは資質的にリンクするものがあるにもかかわらず、チェン・ホンイーは、自身のカラーを蒔いたり散らしたりしない。その愛すべき質素さこそが、結果的に台北の「現在」をトレースしているように思える。

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Written by:相田冬二


「台北セブンラブ」
監督:チェン・ホンイー
出演:アン・シュー/モー・ズーイー/ ホアン・ルー/ ダレン・ワン/チウ・イェンシャン/ トム・プライス/チェン・ユーアン

「台湾巨匠傑作選2019〜恋する台湾〜」にて上映
4月20日~5月10日 新宿ケイズシネマ