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“韓国人はあまり人を褒めない”ということに、アメリカに留学してみて初めて気付いたという。

「私は、韓国では自分が映画をうまく撮れると思ったことがなかったんです。韓国には褒めない文化というものがあって、特に、私の通っていた学校にはそんな雰囲気がありました。奨学金をもらってアメリカの大学院に行ってからは、教授たちが私の作品を褒めて応援してくれました。その時に感じたのは、ひとりのクリエイターがどのような環境と出会うかがとても重要だということでした。もちろん、私自身が成長した部分もあると思いますが、私の演出スタイルを尊重してくれる雰囲気の中で、満ち足りた充足感があったことは事実です。アメリカも学校によってそれぞれタイプが違うと思いますが、私はいい指導者に出会えた運のいいケースだったと思います。教授たちも実際に現場で映画を撮っている映画人だったので、実質的な部分でも助言をもらえたこともよかった。韓国で映画の基礎的な文法を体系的に学び、アメリカで実践的にたくさん映画を作ったことがよかったのだと思います」

世界の映画祭への出品も映画が成功するための大事な鍵となる部分だ。韓国映画振興委員会も積極的に海外の映画祭へ韓国映画を紹介する事業を展開しており、世界から愛される韓国映画の基盤ともなっている。「はちどり」の世界進出戦略を考えたブレーンにはシカゴ芸術大学大学院で映画を学んだマスオーナメント・フィルム代表、チョ・スアがいた。

「映画を作っているときは、映画祭への出品まではあまり考えませんでした。というか、やることが多すぎて考えられなかった。もちろん、海外の映画祭での上映は念頭に置いていましたが、作っているときは作品の完成度だけに集中しました。映画が完成した後で、どの映画祭に出品し、どの映画祭に直接行くのかということをチョ・スアプロデューサーと相談しながら決めていきました。ベルリン国際映画祭が海外での初上映で、ジェネレーション14plusインターナショナル部門でグランプリを受賞できたことがとても記憶に残っています。まったく予想もしていなかったことだったので、本当に驚きました。あと、イスタンブール国際映画祭では、私の好きなリン・ラムジー監督から賞をもらったので思い出深いですね」

最後に、キム・ボラが撮りたい映画について聞いてみた。

「ポン・ジュノ監督が“クラシックを撮りたい”とおっしゃったように、私もまた“マスターピース”を撮ることが目標です。映画の編集、音楽、演出などすべての調和がとれた場面を見るとカタルシスを感じます。もうこれ以上はできないと思えるほど自分が満足できるまで作業をしたいです。ストーリー、演出、撮影、編集すべての調和がうまくとれている作品を作るというのが結局は目標なわけですが、その基準は常に私が作った基準であり、自分自身が満足できる作品を作りたいのです。本当に些細でささやかな日常に驚異が潜んでいます。次に私が撮る映画も人間のリアルな暮らしとその世界を描く話になるでしょうね」

Written by:大森美紀

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「はちどり」


キム・ボラ
1981年11月30日生まれ。東国大学映画映像学科を卒業後、コロンビア大学院で映画を学ぶ。2011年に監督した短編「リコーダーのテスト」が、アメリカ監督協会による最優秀学生作品賞をはじめ、各国の映画祭で映画賞を受賞し、注目を集める。同作品は、2012年の学生アカデミー賞の韓国版ファイナリストにも残った。本作「はちどり」は、「リコーダーのテスト」で9歳だった主人公ウニのその後の物語である。


「はちどり」
監督・脚本:キム・ボラ
出演:パク・ジフ/キム・セビョク/イ・スンヨン/チョン・インギ
©2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.

ユーロスペースにて公開中 全国順次公開


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