*

「ク―リンチェ少年殺人事件」

相田 「ヤンヤン」は光の入り方が以前の作品と違うせいか、窓ガラスの映り込みが際立つ。反射もある。そのことによって画面が重なってくる。過去も現在も未来も混在しているかのように。これは象徴的だと思うんです。単純に現在や過去を描いているのではなく、それは未来につながっているんだ、というのがエドワード・ヤンの世界。「ヤンヤン」でもそうですが、過去作品も含め、鏡が重要な役割を果たしますよね。鏡に映っているものってなんだろうと思うんです。自分の顔が反対に映っている、だけのことだと、数学的にとらえることはできる。でも、やはり本当の顔じゃない。別次元の顔だと思う。

小林 それは、零コンマ何秒前の過去の顔でもある。「恐怖分子」の病院とか「ヤンヤン」のオフィスとか、なにか未来的ですよね。あれは何なんでしょうかね。森田芳光の「わたし出すわ」の病院の表現などに通じるものを感じました。

相田 黒沢清の「トウキョウソナタ」の職業安定所などもそうですよね。現代として撮っているんだけれど、なにか未来のような感じがする。いろいろなことが起きて、1回終わっちゃった後の未来という感じが凄くするんですね。1回終わらないと、未来は始まらない、みたいな。仮定の未来を描くということは、現在を肯定する、過去を肯定するということだと思う。それは未来がいいとかよくなるということではない。今と向き合う、あるいは、過去と向き合うということ自体が未来を肯定することにほかならない。何かが終わった後に、何かが破滅した後に、誰かが死んだ後に、それでも未来は続いていく。それでも人は生きていく。そういうことだと思うんです。

小林 「恐怖分子」はあるひとりだけが終わっていることに気づかなかったという話。ふたつの可能性が提示されていて、シュレディンガーの猫、みたいですよね。エドワード・ヤンって、物理学的ですよね。

*

エドワード・ヤン

相田 どういう作家なのかと語りづらいのはそこだと思うんですよ。我々はどうしても映画作家というものを文学的なレベルまで引き下げようとする。この人は、文学ではなく、物理とか、そっちの人。

小林 もはや量子力学の人かもしれない(笑)

相田 漫画かもしれませんね。ヤンは手塚治虫が好きだった。手塚論を書いているんだけれど、その一説がよかったんです。「自分の既知をもとにして、未来の未知を推測することはいつでも興味深いことなのだ」と言っている。まさにヤンの世界だよね。

小林 白土三平じゃないんだ。「サスケ」じゃないんだ。手塚治虫のニュー・ワールドなんだ、という。

相田 ニュー・ワールドだと思いますよ。あえて、文学的な言葉を使えばこの人がやろうとしていたのは、“以後の世界”だと思うんですよ。何かが終わったあとの世界を描く。そう考えると「クーリンチェ」も「カップルズ」もよくわかる。以後を描く、ということは希望だと思うんですよね。それは志というか。終わってしまっても、それで終わりじゃない、というのは力強いですよ。

小林 終われない。生きなきゃいけない。

相田 世界は続くんだという。誰かが死んだ後の世界を我々はどう生きるのか。それをあるスタイルの中でやっている。「エドワード・ヤンの恋愛時代」で来日した時にヤン自身が走り書きしたメッセージがあって。パンフレットに載っています。「Our troubles begin when we all failed to realize that this world is already the heaven.」とある。私たちの不幸は、この世界がすでに天国であることに気づけないことから始まる……という意味ですかね。このヘブン=天国が“未来”ということ。“未来を想う”、ということは善きこと。それだけで生きられる。想う、ということが大きなことなんだと思うんです。


第4回 A PEOPLE TALK EVENT
エドワード・ヤン 未来の想い出~新しき世界に向けて
TOJI AIDA TALK with 小林淳一(A PEOPLE編集長)

日時:
2018年6月9日(土) 13:30開場 14:00開演
会場:
新百合トウェンティワンホール 第2会議室
神奈川県川崎市麻生区万福寺1-2-2 新百合21ビルB2
(小田急線新百合ヶ丘駅より徒歩2分)
料金:
1,200円(当日お支払い)
定員:
40名

応募方法

以下のメールに下記事項を記入の上、お申し込み下さい。定員に達し次第、応募受付は終了いたします。

ap_info@apeople.world

「A PEOPLE TALK EVENT 6月9日 参加希望 ( )名 お名前 メールアドレス」

主催:A PEOPLE


「台湾巨匠傑作選2018」
6月15日(金) までK's cinemaにて公開中。以後、全国順次公開
※エドワード・ヤン監督作品は「光陰的故事」「台北ストーリー」「恐怖分子」「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」「ヤンヤン 夏の想い出」の5作品が上映。

「台湾巨匠傑作選」

 エドワード・ヤン 未来の想い出~新しき世界に向けて
TOJI AIDA TALK with 小林淳一(A PEOPLE編集長)

A PEOPLE写真展 台北風景物語~台湾・台北の中心、その裏側

「台北風景物語 ウェブ・バージョン」