ホン・サンス
ホン・サンス

2021年6月12日より【渋谷】ユーロスペース 
6月26日より【長野】上田映劇
以降、全国順次公開

上映情報

配給 A PEOPLE CINEMA(エーピープルシネマ)

企画・主催 A PEOPLE CINEMA

企画上映「作家主義 相米慎二
配給作品「台北暮色」「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」「あなたを、想う。

TRAILER

NEWS

【東京】早稲田松竹での上映が決定しました。

A PEOPLE 「作家主義 ホン・サンス」


INTRODUCTION

この哀しみも愛おしさも
初期の名作「カンウォンドのチカラ」「オー!スジョン」連続上映

 映画という芸術の最先端を走り続ける名匠ホン・サンス監督の初期名作「カンウォンドのチカラ」(98)と「オー!スジョン」(00)が連続上映される。

 60年代にジャン=リュック・ゴダールが、80年代にヴィム・ヴェンダースが、90年代にウォン・カーウァイがいたように、00年代以降の映画はホン・サンスによって更新され続けている。96年のデビュー作「豚が井戸に落ちた日」以来、韓国のみならず、有名映画祭を中心に世界中を驚かせてきた彼は、「反復」と「差異」に特徴付けられる独自の映画話法を使ってストーリーテリングの呪縛から軽やかに逃れ、人間という哀しくも愛おしい生き物の素顔を、乾いたユーモアを交えて描き続けてきた。その作品は、年を追うごとに深みを増し、昨年の「逃げた女」に続き、最新作「Introduction(原題)」も、ベルリン国際映画祭で受賞(銀熊賞/最優秀脚本賞)を選ばれた。

 そんなホン・サンス監督の初期名作である「カンウォンドのチカラ」(98)と「オー!スジョン」(00)は、韓国映画の新しい時代を創造した革新的な作品であると同時に、「ホン・サンスがいつホン・サンスとなったのか」が刻印された貴重な2本だ。

 公開当時にホン・サンス監督が「私たち自身をもう一度見つめるような映画が作りたかった。同時にそれが“写実的な”映画になってしまうのは嫌だった」と語った「カンウォンドのチカラ」は、友人と共に観光地として知られる江原道(カンウォンド)を訪れた女性の大学生の行動を見守る前半と、同じ場所を同じ時期に訪れていた男性の大学教師が登場する後半とに分かれている。映画が進んでいくうちに、2人が別れて間もない恋人同士であったことが次第に明らかになるこの映画からは、同じ時間を過ごしながらも決定的に違う風景を見ることしかできない人間という存在の虚しさが伝わる。一方、出会いから初めての一夜までの過程を、男女それぞれの視点から描く「オー!スジョン」では、冬のソウルをとらえた美しいモノクロ映像の中で、それぞれの欲望によって微妙に歪められた記憶の物語が綴られていく。この作品の韓国公開から5年後に惜しくも世を去った女優イ・ウンジュが、前半と後半でまったく違って見える女性スジョンを見事に演じ分けている。

 世界を魅了し続ける映画作家ホン・サンスの25年におよぶ旅の始まりを目撃することは、彼の芸術性を再発見する絶好の機会となるだろう。

FILMS

*

©MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD

カンウォンドのチカラ

監督・脚本:ホン・サンス
出演:オ・ユノン/ペク・チョンハク
韓国 1998年/109分
原題 강원도의 힘 The Power of Kangwon Province

第3回 釜山国際映画祭 NETPAC賞(1998年)
第19回 韓国青龍映画祭 監督賞、脚本賞(1998年)

ホン・サンスの原点
ただどうしようもなく誰かを求めてしまう、女と男

友人たちと共に、自然豊かな江原道(カンウォンド)へと遊びにきた大学生イ・ジスク(オ・ユノン)。雪岳(ソラク)山のふもとで宿を探していた彼女たちは、親切な警察官と出会い、一緒に酒を飲む。妻帯者と付き合っていたことを友人に指摘された後、泥酔したジスクは警察官に介抱され、詰所でひと時を過ごす。それからしばらくして、ジスクは再び彼に会うため、江原道を訪ねる。一方、教え子であるジスクと別れたばかりの大学講師チョ・サングォン(ペク・チョンハク)は、後輩に誘われ、江原道へとやってくる。食堂で目を止めた美しい女性に声をかけるもうまくいかなかった彼らは、夜、飲みに出かけた店で働く女性たちを連れて、ホテルへと戻る。翌日、飛行機に乗り損ねたサングォンは、時間潰しのために訪れた寺で、ジスクの痕跡を発見する。

ホン・サンス監督の長篇第2作で、カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された。小説を原作としてデビュー作「豚が井戸に落ちた日」と違い、自らの着想から始まったオリジナル作品というという点でも、現在に至るホン・サンス映画の原点と言える作品。同じ時に同じ場所を訪れていながらまったく出会うことのない元恋人同士が経験する、似ているようで微妙に違う出来事と心の変化を2部形式でディテール豊かに見せるという構成が見るものを驚かせ、韓国で最も権威のある映画賞と言われる青龍映画賞で監督賞と脚本賞の2冠に輝いた。ホン・サンスの冷徹なカメラの前で、頭で考えるのではなく、ただどうしようもなく誰かを求めてしまう女と男を自然体で演じたのは、本作で映画デビューを果たした「秘蜜」(04)のオ・ユノンと「私の頭の中の消しゴム」(04)のペク・チョンハク。

CAST

オ・ユノン

オ・ユノン

1971年8月9日生まれ。西江大学哲学科卒業後、中央大学大学院映像芸術学科に進学。在学中には短篇映画も監督した。映画デビュー作となった「カンウォンドのチカラ」(98)では、別れた恋人との記憶から逃れられないまま出会った警察官と一夜を過ごし、その後、再び会いに出かける大学生をリアリティのある演技で見せた。本作の後、「恋愛」(05)、「秘蜜」(04)といった作品に出演。近年は東洋大学演劇映画学科教授として後進の指導にあたりながら「悲しき獣」(10)、「ベテラン」(14)や「サバハ」(19)といった映画やドラマに顔を見せている。昨年8月に行われたソウル国際オルタナティブ映画&メディアフェスティバルでは、広報大使を務めた。

ペク・チョンハク

ペク・チョンハク

1964年4月6日生まれ。西江大学経済学部を卒業後、アメリカのシラキュース大学の大学院に留学。帰国後は第一製糖マルチメディア事業部(現CJ ENM)でプロデューサーとなり、パク・チョルス監督の「産婦人科」(97)などを手がけた。「カンウォンドのチカラ」(98)で俳優デビュー。妻と子どもがいながら教え子と愛し合い、友人と訪れた旅先で虚しい時を過ごす大学講師を自然に演じた。そのほかの出演作に「少女たちの遺言 MEMENTO MORI」(99)、「春の日は過ぎゆく」(01)、「私の頭の中の消しゴム」(04)、「サニー 永遠の仲間たち」(11)などがある。ホン・サンス監督作品では、11年の「次の朝は他人」にも出演している。


*

©MIRACIN ENTERTAINMENT CO.LTD

オー!スジョン

監督・脚本:ホン・サンス
出演:イ・ウンジュ/チョン・ボソク/ムン・ソングン
韓国 2000年/126分
原題 오!수정 Virgin Stripped Bare by Her Bachelors

第45回 アジア太平洋映画祭 脚本賞(2000年)
第13回 東京国際映画祭 審査委員特別賞(2000年)
第38回 大鐘賞 映画祭 新人俳優賞(2000年)

モノクロで描かれる、男と女の記憶
女優、イ・ウンジュの傑出した1本

ホテルの部屋で恋人であるヤン・スジョン(イ・ウンジュ)を待っているキム・ジェフン(チョン・ボソク)。画廊を経営する彼は、テレビ番組のディレクターで、先輩でもあるクォン・ヨンス(ムン・ソングン)と一緒に展覧会を訪れた構成作家のスジョンと出会い、恋に落ちたのだった。酒を飲んだ後にスジョンから「お酒を飲む時だけ恋人になりましょうか?」と言われ、交際を始めたジェフン。スジョンとセックスをしようとしたジェフンは「初めてなの」という言葉を聞き、彼女が心を決める日を待っていた。一方、ジェフンからの電話を自宅で受けたスジョンも、2人のこれまでを振り返る。ジェフンと会った当時、スジョンは妻帯者であるヨンスとの苦しい恋愛の最中で、優しくスマートなジェフンに彼とは違う魅力を感じていた。

ホン・サンス監督の長篇第3作で、前作「カンウォンドのチカラ」に続き、カンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された。男女それぞれの記憶をもとに出会いからセックスへと至るまでの心情と行動が美しいモノクロ映像で描かれていく。16の章に分かれたエピソードが、ドライかつリズミカルに積み重なり、欲望に忠実な人間たちの姿が徐々に浮かび上がる。男性から見たスジョンと、自分の記憶の中のスジョンを前後半で演じ分けたのは当時20歳だった「ブラザーフッド」(04)のイ・ウンジュ。05年に亡くなった彼女のフィルモグラフィの中でも、傑出した1本となっている。ジェフンを「妻の恋人に会う」(07)のチョン・ボソク、ヨンスを「夜の浜辺でひとり」(17)など、ホン・サンス作品ではお馴染みのムン・ソングンが演じている。

CAST

イ・ウンジュ

イ・ウンジュ

1980年12月22日生まれ。97年に女優として活動を始め、山中の一軒家で人間の本性がグロテスクに明らかになっていく人間ドラマ「虹鱒」(99)で映画デビュー。翌年の「オー!スジョン」(00年)では同じ人物のまったく違った面を演じ分け、新人離れした存在感を印象づけた。その後、実年齢では10歳年上のイ・ビョンホン演じる気弱な恋人を積極的にリードした「バンジージャンプをする」(01)や「永遠の片想い」など(02)ラブストーリーを中心に活躍。戦争大作「ブラザーフッド」(04)では主人公の婚約者に扮し、出番は少ないながらも、戦争の引き起こしたもう一つの悲劇を体現する人物に作り上げた。04年には久々に主演したドラマ『火の鳥』も大ヒット。ハン・ソッキュ扮する親友の夫と激しく愛し合う歌手を演じた「スカーレット・レター」も公開された。05年2月22日死去。

チョン・ボソク

チョン・ボソク

1961年5月2日生まれ。中央大学演劇映画学科卒業後、放送局KBSの特別採用タレントとして86年からドラマで俳優活動を開始。89年に「その後も長い間」(未公開)で映画デビューを果たす。「マナーがよくて優しいイメージの男性を探しているうちに、彼のことが思い浮かんだ」というホン・サンス監督によって「オー!スジョン」(00)にキャスティングされる。「豚が井戸に落ちた日」を見て監督の大ファンだったというチョン・ボソクは、すぐに出演を快諾したという。チョン・スイル監督の「私は私を破壊する権利がある」(05/未公開)で主演を務めた後、「妻の恋人に会う」(07)では、主人公の妻と浮気している口数の多いタクシー運転手を軽妙に演じた。その後は現在に至るまで、数多くのドラマに出演。10年の『ジャイアント』では、百想芸術大賞テレビ部門の男性最優秀演技賞に選ばれた。

ムン・ソングン

ムン・ソングン

1953年5月28日生まれ。父は民主化運動の指導者のひとりとして知られるムン・イクファン牧師。舞台で活躍した後、30代後半から映画出演を始め、90年の「追われし者の挽歌」で各映画賞の新人賞に選ばれる。その後も、チャン・ソヌ監督の「つぼみ」(96)、イ・チャンドン監督のデビュー作「グリーン・フィッシュ」(97)などに出演。映画界のオピニオンリーダーとしても知られており、保守政権が続いていた09年からの8年間はドラマ出演が制限されていた。「オー!スジョン」以降も、「浜辺の女」(06)、「教授とわたし、そして映画」(10)、「3人のアンヌ」(11)、「夜の浜辺でひとり」(17)と4本のホン・サンス作品に出演。その他の映画出演作に「海にかかる霧」(14)、「1987、ある闘いの真実」(17)、「バーニング 劇場版」(18)などがある。

PROFILE

ホン・サンス

写真:Everett Collection/アフロ

ホン・サンス

 1961年10月25日、ソウル生まれ。中央大学演劇映画学科で学んだ後、カリフォルニア芸術工科大学で美術学士号(BFA)、シカゴ芸術学院で美術修士号(MFA)を取得。留学中に数本の短篇映画を監督した。フランスに立ち寄り、多くの映画を見た後に帰国。ディレクーとしてテレビ番組を手がけた後、96年に「豚が井戸に落ちた日」で長篇デビュー。同作はロッテルダム国際映画祭でタイガー・アワード(最高賞)ほか、国内外の多くの映画賞を受賞した。97年から02年にかけては韓国芸術総合大学映像院映画科の教授を務めている。「カンウォンドのチカラ」(98)、「オー!スジョン」(00)がカンヌ国際映画祭ある視点部門に出品された後の03年2月には、初期3作品がフランス全土で同時公開され「世界の映画界が注目すべき監督」として、早くも紹介された。

 「女は男の未来だ」(04)と「映画館の恋」(05)がカンヌ国際映画祭のコンペティション部門で上映されて以降は、主要国際映画祭の常連となり、「ハハハ」(10)がカンヌ国際映画祭ある視点部門のグランプリ、「ソニはご機嫌ななめ」(13)がロカルノ国際映画祭監督賞、「自由が丘で」(14)がナント三大陸映画祭金の気球賞(グランプリ)、「正しい日 間違えた日」(15)がロカルノ国際映画祭金豹賞(グランプリ)、主演男優賞(チョン・ジェヨン)、「あなた自身とあなたのこと」(16)がサン・セバスティアン国際映画祭シルバー・シェル(監督賞)、「夜の浜辺でひとり」(17)がベルリン国際映画祭銀熊賞(主演女優賞/キム・ミニ)、「逃げた女」(20)がベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)、「INTRODUCTION」(21)がベルリン国際映画祭銀熊賞(脚本賞)を受賞。絶え間ない創作活動と、作品ごとに見せる新たな試みを続ける、世界でも稀有な監督としての地位は揺るぎないものとなっている。「3人のアンヌ」(12)、「クレアのカメラ」(17)でフランスの名優イザベル・ユペール、「自由が丘で」で加瀬亮と、海外の俳優とのコラボレーションでも成果を残している。

 15年の「正しい日 間違えた日」で初めて組んだ俳優キム・ミニとは、公私共にパートナーとして知られ、「夜の浜辺でひとり」の韓国公開を控えた17年の記者会見でホン・サンス監督自ら恋愛関係にあることを認めた。監督と配偶者との離婚をめぐる訴訟は19年に棄却されたが、その後も、2人は共に作品を作り続けている。

フィルモグラフィ

*映画祭のみは、国内映画祭での上映のみ


ホン・サンス最新作 逃げた女

*

© 2019 Jeonwonsa Film Co.

監督・脚本・編集・音楽:ホン・サンス
出演:キム・ミニ/ソ・ヨンファ/ソン・ソンミ/キム・セビョク/イ・ユンミ/クォン・ヘヒョ/シン・ソクホ/ハ・ソングク
韓国 2020年/77分

第70回 ベルリン国際映画祭 銀熊賞(監督賞)受賞(2020年)
公式サイト「逃げた女」
6月11日(金)より「ヒューマントラストシネマ有楽町」「新宿シネマカリテ」「アップリンク吉祥寺」にて公開 ほか全国順次公開

第70回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)受賞
ホン・サンス監督×主演キム・ミニ、7度目のタッグ作

ポン・ジュノ監督作「パラサイト 半地下の家族」(19)が米アカデミー賞作品賞に輝き、キム・ボラ監督の長編デビュー作「はちどり」(18)がコロナ禍の日本でスマッシュ・ヒットを記録。娯楽映画からアートハウス系の作品まで質量共に充実し、世界的に注目を集める韓国映画において、ひときわ特異な存在感を放ち続ける映画作家、ホン・サンス。24作目となる新作「逃げた女」は、第70回ベルリン国際映画祭で初の銀熊賞(監督賞)を受賞、2020年カイエ・デュ・シネマが選ぶベストテン2位に輝いた注目作だ。監督の公私のパートナーであり、パク・チャヌク監督作「お嬢さん」(16)でも鮮烈な印象を残した女優キム・ミニ(ニューヨーク・タイムズ紙が選ぶ「21世紀最高の俳優25人」にソン・ガンホと共に選出)との7度目のタッグ作であり、監督作品の常連俳優のソ・ヨンファ、クォン・ヘヒョ、「はちどり」のユジン先生を演じたキム・セビョクなど実力派が顔を揃えた。猫の名演技にもご注目!

ホン・サンス作品の代名詞ともいえる長回しや奇妙なズームアップの演出が、一見たわいない会話、登場人物の気まぐれな行動を通して、愛や結婚、さらには人間や人生の本質をユーモアと詩情豊かに描き出していく。果たして「逃げた女」とは誰のことなのか、そして、彼女は一体何から逃げたのか。

THEATER

2022年
 
11月9日(水)〜11日(金)
【東京】早稲田松竹
1月28日(金)〜2月17日(木)
【東京】Morc阿佐ヶ谷
2021年
 
6月18日(金)
【京都】アップリンク京都
6月19日(土)~6月25日(金)
【富山】ほとり座
6月26日(土)
【長野】上田映劇
7月10日(土)
【愛知】名古屋シネマテーク
7月23日(金)
【福岡】KBCシネマ
8月20日(金)~26日(木)
【東京】アップリンク吉祥寺
9月18日(土)~10月8日(金)
【大阪】シネ・ヌーヴォ
9月25日(土)~10月8日(金)
【東京】下高井戸シネマ
10月10日(日)~10月22日(金)
【神奈川】横浜シネマリン
12月17日(金)~12月23日(木)
【宮城】フォーラム仙台
12月17日(金)~12月30日(木)
【京都】京都みなみ会館

*パンフレットに誤りがありました。以下の通り、修正させていただきます。

「作家主義 ホン・サンス」パンフレット
正誤表
P38「自由が丘で」レビュー クレジット (誤)文=相田冬二→(正)文=賀来タクト
関係者の皆様に深くお詫びするとともに、ここに訂正させていただきます。