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CULTURE / MOVIE
「台北暮色」
Nulbarichの音楽が、物語を紡ぐ

アップリンク・クラウドが展開する「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。配給会社別に映画見放題パック配信を行っている。そこに、アジアと日本を結ぶカルチャーサイト、A PEOPLE(エーピープル)が参加。「台北暮色」、「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」、「あなたを、想う。(念念)」、「ひと夏のファンタジア」、「春の夢」(スプリングハズカム配給)の5作品を配信中。そこで、「台北暮色」エンディング曲、Nulbarich「Silent Wonderland」に関するレビューをお送りする。


都会の喧噪が夕暮れの中に溶け、黒みのエンド・クレジットが夜のとばりのごとくにじんでいくとき、その歌はおもむろに立ち上がる。まるで音を忘れた人のために。まるで忘れた音を思いだそうとする人のために……。
 映画「台北暮色」は、静かな物語だ。静かな人間ドラマ。静かな心の交感。静かな葛藤と友愛。静かな終わりと始まり。どこまでも繊細に、音が見つめられている。デザインされている。まさに音を感じる映画体験。音を理解する最高の機会。
 Nulbarichは「音」に気づいている。「台北暮色」の静寂をわかっている。
 Stuck in Silent Wonderland. It’s like a Quiet Merry Go Round……
 それは音のないワンダーランド。まるで静かに回るメリーゴーラウンドのよう。そんな魅力ある世界から逃れることは難しい……。
 ことばにならない世界。ことばにできない風景。台北の街に感じた思いをNulbarichは最後に示してくれた。台北という現代に生きる人間の、どうしようもない心のさまよいを歌に昇華させてくれた。ボクらが言いたかった思いがここにある。ボクらが映画を通して見つけた自分自身がここにつむがれている。その優しさ、温かさ、寂しさ、美しさ。
 なんて大胆なのだろう。なんてまっすぐなのだろう。Nulbarichは映画の終幕を包む静寂を驚くほど直截に打ち破りながら、それでいてその感動を瑞々しく収斂させている。ボクらのどこか満たされずにいる日常の思いを鮮やかに音にして代弁してくれる。
 夕暮れにゆらめく台北の街の灯は、Nulbarichの歌=サウンドと重なって、いよいよその記憶の中でボクらを魅了して離さない。そこは音が豊かな世界。音が無駄にならない静寂の不思議の国。Nulbarichの歌だけが語ることができた現実と心の彼岸をつなぐ物語。
 音の、音楽の素晴らしさを教えてくれる響きがここにある。

Written by:賀来タクト

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「台北暮色」
ホウ・シャオシェンは言う。「現在の台北を描いたのは、エドワード・ヤン以来だ」。女性監督、ホアン・シーのデビュー作品。惹きつけられる、目が離せないカットの数々。台北の街、路地、鉄道、道路、そこに降る雨、そこにある水たまり、その美しさ。もろくも孤独な魂たちが、美しく、強く結ばれるとき。台湾新生代の感覚が鮮烈に表象される。ホウ・シャオシェンが製作総指揮を務めた。A PEOPLE CINEMA第1回配給作品。 キネマ旬報2018年ベストテン67位/アジア映画11位(A PEOPLE調べ)。

監督・脚本:ホアン・シー
製作総指揮:ホウ・シャオシェン
出演:リマ・ジタン/クー・ユールン/ホアン・ユエン
2017年製作/107分/台湾
原題:強尼・凱克 Missing Johnny
配給:A PEOPLE CINEMA

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