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CULTURE / MOVIE
「台北暮色」
三宅唱 × ホアン・シー

アップリンク・クラウドが展開する「Help! The 映画配給会社プロジェクト」。配給会社別に映画見放題パック配信を行っている。そこに、アジアと日本を結ぶカルチャーサイト、A PEOPLE(エーピープル)が参加。「台北暮色」、「慶州(キョンジュ)ヒョンとユニ」、「あなたを、想う。(念念)」、「ひと夏のファンタジア」、「春の夢」(スプリングハズカム配給)の5作品を配信中。そこで、「台北暮色」パンフレットから、「きみの鳥はうたえる」三宅唱監督とホアン・シー監督の対談を一部抜粋する。


三宅唱(以下三宅) 「ホアンさんの作品、拝見してとても美しい映画だと思いました。特に印象に残っているのは、夜の光。次に、昼の光。そして最後に、夕暮れの光。そういう光の移り変わりの様子が感じられるのが映画として豊かだと思いました」

ホアン・シー(以下ホアン) 「ありがとうございます。実は、私たちは別の色として台北の街を眺めていたんです。具体的にはフィルターを使って撮影をしたんですが、私としては白っぽくて明るい台北は見たくない、と。そこで、ヤオ・ホンイーさんが紫がかったジェンターのフィルターを使ってくれたわけなんです。あと、少しでもフィルムの感覚を出したかったので、光の調整をするとき、カメラマンのヤオさんは非常に細かく、本当にしっかり見ないとわからない程度にグレインを加えました」

三宅 「その結果が僕の感じた美しさに出ているんですね」

ホアン 「三宅監督がおっしゃったご感想をヤオさんに伝えたら、絶対喜ぶと思います」

三宅 ぜひよろしくお伝えください。でも、日本の多くのお客さんも、仮に映画の仕事をしていなくとも、きっと“いい光がある街なんだろうな”と感じると思います」

ホアン 「私の日本映画に対する印象は一般的なもので、色のトーンとしてはわりと軽やかで、白っぽく明るいというイメージがありました。ところが、三宅監督がつくられた『きみの鳥はうたえる』はそれとは違って、とにかく濃厚で驚きました。最初から引き込まれて、すぐに映画の中に入っていけました」

三宅 「嬉しいですね。まさか最初にお互いのカメラマンの仕事を褒め合うとは思わなかったですけど(笑)」

ホアン 「でも、そういう技術的なことから入って物語を見ていくと、次にいろんなディテールのよさが見えてきたんです。登場人物ひとりひとりの細かいクセや仕草に生活感があってリアル。本当に作品に見入ってしまいました」

三宅 「ありがとうございます。今おっしゃった登場人物のクセや生活のディテール(を特徴づける)というのは僕ら監督の仕事だと思いますし、それをつくるのは僕自身、楽しかったです。同じように、僕もホアン監督がそういう演出をされているなと、映画を見ながら感じていました。印象的だったのは、たとえば登場人物が何かをしながら同時に別のことをする動き。鳥かごをいじりながら電話をかける、とか。あるいは、スイカを食べながら人と話す、とか。そんな別のアクションが同時に進行していることがとても豊かな演出だなと思いました」

ホアン 「特別に“同時にふたつのことをやってください”とは指示してはいないんです。ただ、役者たちがリラックスした環境の中で自由に演じられるように心がけました。複数の人間が一緒にいるとき、たとえ台詞が重なったとしても心配しなくていい、と。安心して演じられる環境さえつくれば、彼らはそこで暮らしているようにやってくれますから。我々はそこで生まれてくるものをキャッチすることに専念するだけでした」

三宅 「役者たちがリラックスできる環境という言葉、すごく印象深いです。というのも、僕らの現場でも彼らがどれだけリラックスできるのかというのが最も重要なことでしたので、そこはすごく似ているなと思いました」

ホアン 「三宅監督がどのようなやり方をされているのかはわかりません。けれど、私に当てさせてください(笑)」

三宅 「はい、ぜひ(笑)」

ホアン 「やっぱり、私に似ていると思うんです。普段の生活の中で、私たちはいろいろな人と出会って、いろんな出来事を見ています。私などはつい観察しちゃうんです、目の前の人のクセや仕草を。すごく面白いじゃないですか。そういうのを私は覚えておくんです。すると、映画の準備をしていて、ある役について考えるときなどに“あ、これなら、あのとき見たものが使えるんじゃないか”となったりする。便利ですよね(笑)。人間だけに限らず、そのときに見て覚えていた景色や環境も同じです。そういうディテールがとても映画作りに役立つんです。結局、映画の中で描かれているものというのは、まず監督自身が好きなものじゃないですか。三宅監督の『きみの鳥はうたえる』では冒頭で男の人(柄本佑演じる「僕」)が女の子(石橋静河)を待つ間、ウィンドウの前で数をカウントするじゃないですか。そこを見ながら私、笑ってしまったんです。私が小さいときにやっていたこととまさに同じだったから(笑)」

三宅 「あ、そうでしたか(笑)」

ホアン 「もっとも、私の場合はロマンティックな待ち合わせではなかったんですけど(笑)。そういうディテールが映画を豊かにしたのだと思いましたし、私と似ているのかなと」

三宅 「正解だと思います(笑)。ホアン監督から今、素敵なフレーズをいただきました。観察することが好きというのは、観察している相手や風景が好きであるということですよね。その感覚、とても理解できます。ホアン監督の映画も始まってすぐにわかりました。“あ、この監督はこの世界を愛そうとしているものでとらえているのだ”と。人もそうですし、街もそう。すべてに愛情を持って接している。あるいは、信頼している。そういう感覚がずっと続いているということが安心をさせてくれるんですね。しかも、その好きになる相手がエンストしてしまう人とか、窓の修理がうまくいかない人とか、何かをやろうとしてもなかなかうまくいかない人たちばかりなんですね。彼らがチャーミングに映っているところが僕は好きです」

(「台北暮色」パンフレット冒頭より抜粋 構成:賀来タクト)

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「台北暮色」
ホウ・シャオシェンは言う。「現在の台北を描いたのは、エドワード・ヤン以来だ」。女性監督、ホアン・シーのデビュー作品。惹きつけられる、目が離せないカットの数々。台北の街、路地、鉄道、道路、そこに降る雨、そこにある水たまり、その美しさ。もろくも孤独な魂たちが、美しく、強く結ばれるとき。台湾新生代の感覚が鮮烈に表象される。ホウ・シャオシェンが製作総指揮を務めた。A PEOPLE CINEMA第1回配給作品。 キネマ旬報2018年ベストテン67位/アジア映画11位(A PEOPLE調べ)。

監督・脚本:ホアン・シー
製作総指揮:ホウ・シャオシェン
出演:リマ・ジタン/クー・ユールン/ホアン・ユエン
2017年製作/107分/台湾
原題:強尼・凱克 Missing Johnny
配給:A PEOPLE CINEMA

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