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チャン・リュル
「柳川」

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佐藤 結


水だらけのところですから、
水から離れることができない

「中国では、生まれてから死ぬまでをひとつの旅であると例えることが多い」と語る映画監督チャン・リュル。中国吉林省の朝鮮自治州で生まれた彼は、その言葉と重なるかのように、いつも流れるように移動しながら映画を作り続けてきた。12年から居を移した韓国では、異邦人としての視点から彼の地にカメラを向け、「慶州(キョンジュ) ヒョンとユニ」(14)など、6本の作品を生み出した。最新作となる「柳川」は、タイトルどおり福岡県柳川市で撮影され、韓国、中国、そして、オンラインで結んだ台湾でポストプロダクションを行ったという。新型コロナウイルス感染症の拡大が始まって3年。北京に滞在し続けているというチャン・リュル監督に話を聞いた。

――「柳川」は北京に住むドンという名の男性が癌で余命幾ばくもないということを告げられたところから始まります。彼はそのことを胸にしまったまま、兄チュンを誘って、柳川へとやってきます。ドンの初恋の人で、チュンの恋人でもあったリウ・チュアンという女性がそこにいることを知ったからなのですが、彼女の名前の発音が街の名前と同じという設定がおもしろいですね。

アジアフォーカス・福岡国際映画祭に参加したことがきっかけで、初めて柳川に行きました。もう10年くらい前になるのですが、とても美しくて静かなところだという印象を持ちました。中国にはもとも「柳」という名字があり、この美しい町と同じ名前を持つ人と考えると、男性ではなく女性、美しい女性じゃないかと思いました。そこからいろいろと空想を働かせて、そういう人がいたらおもしろいだろうな、そして、その人が柳川に来たらもっとおもしろいだろうなと想像していくうちに、イメージが広がっていきました。

――柳川は街の中を網目のように張り巡らされた堀割で有名です。映画の中でも、登場人物たちが代わる代わる船に乗って、川下りをするシーンが登場します。ゆっくりしたリズムと横移動の撮影がとても美しかったですが、同時に「慶州」に登場した、干上がってしまった川のことも思い出しました。

「慶州」では、主人公が過去に訪れた時に見た川があったはずだと探す訳ですね。そして、最終的にはそれは水のない乾いた川で、音だけが聞こえました。一方、柳川というところは水だらけのところですから、水から離れることができない。運河(堀割)というものは、この場所の最大の特徴でもあり、今は観光用に船があるわけですけれども、かつては交通手段でした。そういった水による移動、旅というものが、温かい、優しい感じをもたらすのではないかと、そして、映画の中での恋愛を表すのに適切なのではと思いました。

――「慶州」ではパク・ヘイルとシン・ミナ、「群山」(18)ではムン・ソリ、「福岡」(19)ではパク・ソダムなど、韓国の俳優たちと組んで作品作りを続けてこられました。今回はリウ・チュアン役のニー・ニー、兄弟役のシン・バイチンさん、チャン・ルーイーという中国の俳優に加え、日本から池松壮亮、中野良子も参加しています。

以前、韓国にいた時に中国のスターたちは一緒に仕事がしづらいという噂を聞いたことがあったので、少し不安を抱えていたのですが、撮りたいものについて共鳴することができれば、彼らはとても経験豊富で、すばらしい能力を発揮してくれます。実際に撮ってみると、これまでとまったく同じだなと思いました。また、今回、気づいたのは、日本の俳優さんたちもとてもすばらしいということです。池松壮亮さんにせよ、中野良子さんにせよ、私はとても感動し、とても多くのものを学びました。映画に対する情熱を感じました。最初は機嫌を損ねたらどうしようと心配していましたが、結果的にはとても感謝していますし、また一緒に仕事をしたいなと思っています。

――「旅」と「死の気配」は「慶州」以降の作品に共通するモチーフですね。

言われて初めて気づきましたが、テーマを決めて撮っているつもりはなく、生活の中から出てきた自然な感覚ではないかと思います。中国では、生まれてから死ぬまでをひとつの旅であると例えることが多い。「慶州」という映画を撮った時には、私はすでに年をとっていましたし、今はもっと年をとっています。周りには旅の途中にある人、あるいは旅を終えて去っていった人がどんどん増えています。ですから、そういうところから旅というモチーフが出てきたのではないでしょうか。老いることによって自然に生まれてきた傾向かなと思っています。

――以前、取材をした際にうかがった「生活が変われば映画も変わる」という言葉が印象的でした。今後、チャン・リュル監督の映画はどのように変わっていくのでしょうか。

韓国にも日本にも行けない状況の中、北京で1本の映画を撮り、現在、編集中です。この映画が出来上がって観客のみなさんに見ていただければ、私の中でどんな変化が起きているのかということが伝わるのではないでしょうか。

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「柳川」


「柳川」

監督・脚本:チャン・リュル
出演:ニー・ニー/チャン・ルーイー/シン・バイチン/池松壮亮/中野良⼦/新音
2021 年/中国/112分
配給:Foggy/イハフィルムズ
12月30日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
12月16日(金)よりKBCシネマにて福岡先行公開

「福岡」
「群山」

12月23日(金)より新宿武蔵野館(東京)にて一週間限定公開
12月23日(金)よりKBCシネマ(福岡)、12月30日(金)より横浜シネマリン(神奈川)ほか順次公開

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