 
			恐らく、多くの映画ファンが最初にパク・ヘイルという存在を意識した作品。
       1980年代後半に実際に韓国で起きた未解決殺人事件に材を得た作品で、パク・ヘイルは容疑をかけられる青年として登場。それも、残り40分というタイミングで。
        容疑の理由は、雨天時に起こる事件の際、必ずラジオ番組に「憂鬱な手紙」なる歌謡曲のリクエスト葉書を出していたことから。化学工場で働く事務員という設定。「柔らかな手」を持つというのも容疑のひとつ。
 ソン・ガンホ扮する刑事に勤務中に踏み込まれ、そのまましょっぴかれる。作業机で本を読んでいると、そこへソン・ガンホ。顔を上げるとき、スローモーションでズームアップされていく。あえて印象を残すための演出だろう。
 一見、普通の塩顔青年。後年の年齢を重ねた顔立ちに比べれば当然、幼さが残り、グレーのハイネックセーターを着ていることもあってか、田舎の子ども顔という感じ。
 ほぼ何を考えているのかわからない表情。素朴な気分も含め、これも演出の手によるものか。と思っていると、焦れる刑事に突然、怒りをあらわにしたりもする。そのギャップ。
 限りなくクロに思わせるグレーな男。立ち位置としては「ユージュアル・サスペクツ」や「セブン」のケヴィン・スペイシーみたいなもの。いわば儲け役。最後までよくわからない男という気分を観客に引きずらせ、どうにも強い印象が残る。
			
トンネルの暗闇の奥に消えてそのまま、という消え際もある意味、鮮やかだ。
文:賀来タクト
  「殺人の追憶」(2003)
監督:ポン・ジュノ
出演:ソン・ガンホ/キム・サンギョン/パク・ヘイル/キム・レハ
  
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